『ここだけの話』

登場人物
A子…主役
B子…準主役
C子…準主役
D子…脇役・スタッフ
E子…脇役・演出

舞台上・ジャージ姿の少女が五人

E子:そうじゃない。もう一回やって。
A子:どうやっていいか分からない! そんなに言うんならやってみせてよ!
E子:私ができたって、あなたができなきゃしょうがないの。はい、もう一回。
A子:、、、あっ、、、や、、、っ
E子:そうじゃない。もう一回。
A子:いいかげんにして!
E子:いらいらしないで。10分休憩。
B子:、、、ぶっちゃけ、何が気に入らないの? もうこのシーンだけで、1時間以上やってるよ。
E子:できてないから。できるまでやる。
B子:気持ちはわかるけどさ。
C子:完成度を上げたいのはわかるよ。でも、稽古の時間も限られてるの。この場面にだけ時間かけたって、他がおろそかになっちゃったら意味ないでしょ。
B子:だいたいさ、なんでこのシーンにこだわるの。そこまで重要なシーンじゃないじゃん。
D子:どっちかっていうとギャグですよね。
A子:ギャグなら、オーバーなほうが分かりやすいと思うんだけど。
E子:それで笑い取れるの。
C子:私は面白いと思うけどな。
B子:変にリアリティ追及するより、さらっと流したほうがいいと思う。さらっと流す、おしっこネタだけに。
A子・C子:何うまいこと言ってるのよ。
D子:あはははは!
C子:あんたウケ過ぎ。
A子:オーバーに分かりやすく、だったら、内またでおまた押さえて、あーだめー、みたいなのが絶対分かりやすいでしょ?
E子:自分がおもらししたとしたら、そんなポーズ、する?
A子:そりゃあしないかもしれないけど。リアルさよりも分かりやすさ、でしょ?
E子:内またでおまた押さえてたら、おもらししてるように見える?
A子:え? 見えるよね?
B子:おしっこ我慢してるふうには見えるよ。
A子:じゃあもっとくねくねすればいい?
C子:すごい我慢してる子っぽい!
B子:くねくねしつつ、途中でちょっと表情を変える。
D子:出た! 顔芸!
C子:じゃあまず、我慢してる顔。どうぞ!
A子:こう?
B子:次、出ちゃった顔。どうぞ!
A子:こう?
D子:あはははは!
B子:そんなにウケるところじゃないだろ。
C子:おしっこ我慢ポーズと表情の変化で、分かりやすくおもらしを表現できてると思うけど、どう?
E子:わかりやすいとは思う。
B子:あ、でも、どうだろうな。
A子:何?
B子:別にこれ、おもらししたって観客全員に伝わらなくてもいいシーンだよね。
E子;どういうこと?
B子:逆に、敢えてオーバーなアクションにしないで、文字通りさらっと流しちゃう路線もありかなって。
A子:例えば?
B子:敢えての棒立ち、とかさ。
D子;ああ、なるほどね!
C子:何感心してるの。
D子:いや私さ、幼稚園のとき目の前で男の子がおもらししたの見たんだよ。そのとき棒立ちだったわって、今すごい思い出した。
A子:棒立ちって、どんな感じだったの?
D子:え、なんかこう、前に手当てて立ってて、足元にどんどん水たまりが広がってく、みたいな?
B子:あなたがやるとなんかエロいわ。
D子;やっぱり? おしっこもフェロモンも出ちゃった?
E子・C子:何うまいこと言ってるのよ。
A子:表情は?
D子:えー? 無表情、っていうのかなぁ。目の焦点合ってない感じ。
A子:なるほどね。でも、それだと分かりにくいよね。舞台上で実際おもらしするわけにいかないから、仕草だけでしょ?
E子:SE使う手はあるわよ。ちょろちょろ水が流れる音とか。
B子:棒立ちとか仁王立ちで、水音のSE入ったらおもらししてるみたいに見える?
A子:ちょっとやってみよ。はい、棒立ち。
C子:ちょろっ、ちょろちょろちょろちょろ。
B子:あー、見えるっちゃ見える。SEフェードアウトか、思い切ってSE残しての暗転とかもありかも。
E子:すごい。演出プランいっぱい出てきたじゃん。
A子:あれ、もしかしてちょっと怒ってる?
E子:別に。いいよ、続けて。
C子:じゃあ、方向性としては、オーバーにおまた押さえたりするより、棒立ちで放心、みたいなほうがおもらししてるっぽい、ってこと?
B子:それでやってみようか。いい?
E子:おっけー。おもらしの瞬間はそれでもいいかな。でも、そこまでのシーンはどうする?
B子:そこまでのシーン?
E子:セリフには書いてないけど、その前の場面でもずっと我慢してるわけでしょ? そこをどうするか。
A子:あー、ずっと、おしっこ我慢してる風に見せるか、ってことか。
E子:そう。これ、次から次に想像もできないことが起こって結果的にトイレに行けない、って場面でしょ。
A子:うん。
B子:ストーリー的には想像もできないことが次つぎ起こる、ってほうがメイン。しかも、そこでも笑い取らないといけない。
C子:怪獣が出てきたり、タライが落ちてたりをテンポよくやらないと、笑えないよね。
E子:そう。
B子:あんまりおしっこ我慢が目立っちゃうと、かえってテンポ悪くなっちゃうか。
C子:露骨に我慢してたら、本編に集中できないんじゃない? ほら、さっきみたいにずっとくねくねしてたら、かえって目ざわりっていうか。
A子:あぁ、なるほどね。
B子:最初の、「わたしちょっと」ってセリフ、これ要は、トイレに行こうとしてるってことでしょ?
A子:そう。
B子:この時点で、お客さんには、主人公がどこかに行こうとしてた、っていうのは伝わってるんだよね。それからいろいろあって、実は主人公はトイレに行こうとしてて、でも行けなくてもらしちゃった、っていうのがオチ、と。



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