『クリスマス・パーティ』

*場面の一部に性的な描写を含みます。
 ご理解の上、ご覧ください。

―1―
 「わぉ、あおっち、女の子してるー!」
 お菓子やジュースの詰め込まれた買い物袋を机に置きながら、少女は甲高い声をあげた。
「ちょっと、声大きいし」
 ベージュのダッフルコートを片手に持ったまま、佐々木あおい、は、眉を寄せた。
「だってスカートだし、気合い入ってるぅ!」
 肩を少し過ぎる髪を、襟足を残して黒のバレッタでまとめている。ブラウスの白い襟がのぞく、上品な紺のワンピース。裾から見え隠れする膝と白いソックス、すらりとした長身も相まって、どこかのお嬢さま、といった出で立ちに、友人はまだ顔を緩めたままでいる。
「学校じゃないときは、こういう服も着るの!」
あおいは、口をとがらせた。
 12月も半ば、冬休みが目の前の日曜日に、友人の家で企画された、クリスマス・パーティ。もちろんそんなに大がかりなものじゃなくて、集まるのは小学校でもなかよしの6人。集合時間より1時間早く、あおいはパーティ会場の友人、藤田ひな宅を訪れて、準備を買って出たのは、今日のお客さんに、しょうたくんも入っているから。
 夏が過ぎて、いつのまにか秋がやってきていたころ、あおいは、彼を好きになった。小学校5年生くらいだと、女の子のほうがずっと大人びていて、ましてや背も高く、行動的で女子のまとめ役になることが多いあおいにとって、いつもランドセルを引きずりながら駆けまわっているしょうたくんは、かわいくて手の焼ける弟分みたいなものだった。
 でも、優しくて、素直で、どんな時でも話し相手になってくれて、なんにも考えずにいっしょにいる事ができるしょうたくん。いっしょにいると楽しいんだ、そう思った秋の日、あおいの胸は、きゅう、小さな音をたてた。
 「あおっち、飾り付け、手伝ってぇ」
 もう何度も遊びに来ている友人の部屋の床一面に、紙製の飾りが放り出されている。
「えー、ひーちゃんこれ、ひとりで作ったの?」
「うん、こういうのあったほうが気分でるでしょ?」
 窓際の、高い所に飾りをつけようと、椅子に足を掛けて、ふわ、太もものほうに空気が流れてきて、久しぶりのスカート、さっきはあんなふうに言ってみたけれど、やっぱりなんだか、くすぐったいような気がした。
 休み時間ともなれば、男子と一緒に校庭を走り回ったり次から次へと遊具にしがみついたりしているあおいだったから、まずスカートで学校に行ったことはない。あおっちは一年じゅうショートパンツだよね、友達の幾人かに言われる。だから、ひょっとしたらはじめてスカート姿を見たかもしれないひーちゃんが、驚くのも仕方がない。だってしょうたくん、おちついたおんなのひとがタイプかな、って、言ってたから。
 ひと通り飾り付けを終えて、部屋の真ん中にクリスマスツリーを出して。お菓子やジュース、紙コップなんてを用意して。もうすぐ集合時間。
「あおっち、告っちゃう?」
 ふいに、友人がこちらを向いた。
そういうこと、いま言うかな。
きゅう、胸の中で小さな音がする。うん、言えたら、言う。そんなことを答えた気がする。
「そっかぁ。えぇ、どうやって言うの? どんな感じ? 二人っきりのほうがいい?」
 今日のあおいの出で立ちを見たときよりももっと顔を緩めて、友人は話をする。
「別に、そんな、考えてないから! ていぅか変な気まわさないでいいからね! わざとらしく二人きりとか、ぜったいなしだよ!」
 はーい、返事はするけれど、まだ顔がにやけている。どうやって告白しようかなんて、考えたって分かるわけないじゃん。協力してくれるのはありがたいけど、そっとしといてよ!

 ぴんぽーん、呼び鈴の音がする。
 あ、来た! ひーちゃんはぱっと立ちあがって、はーい、階段をとたとた降りていく。それから、少しして、賑やかな声が階段を上がってくる。わたしはなんだか立ちあがって、入り口からちょっと離れたところに位置取る。
 おっす、メリークリスマス、ばたばた、お客さんたちが部屋に入ってくる。男子はしょうたくんも入れて3人、女子がもう1人、ちょうど3対3。
 適当に座っちゃって、ひーちゃんが声をかけて、みんなツリーを囲んで輪になって座って、しょうたくんはわたしの斜め前、座るまでずっと目で追っていて、ちょっと恥ずかしくなって、視線を逸らした。
 クリスマスパーティ、と言ってはみたけれど、特別なことは考えてなくて、ひーちゃんが大好きな男性アイドルグループの曲なんかをかけて、それから、トランプとか、おしゃべりとか、予想通りだけど、しょうたくんはわたしの服について何も言ってはくれなくて、それでも、いっしょにいられることは嬉しかった。
 さいきん、あんまりしょうたくんといっしょに遊んでなかった気がする。彼をつい目で追ってしまうことが、なんだか恥ずかしくて、でも、見つめていたくて、ついついちょっと少し離れたところにいた気がする。ツリーがぴかぴかして、その向こうで短髪の笑顔が揺れている。楽しいな、いま、すごく。




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