ー7ー
 がちゃり。
 ドアノブをそっと、回す。
 回る。ゆっくり手前に引く。
 開く。
 ただいま。
 小さな声で、言う。
 玄関で靴を脱いで、いっしょに靴下も脱いだ。
 そのまま、リビングの手前、バスルームに放りこむ。
「お帰り、遅かったじゃん」
 妹はリビングで、ソファに座ってテレビを見ていた。
「あり、どうやって家、入ったの?」
 わたしはつい、聞いてしまう。
「どうって、鍵開けて」
 そうか、ありはいつも鍵、持ってるんだ。一番に帰って来るから。
「お姉ちゃん、玄関の前さ、へんな水たまりあったでしょー?」
どき。
「うん、あった」
「ちょお迷惑だよね、いたずらかな」
「そうだね、なんだろう」
 頼むから、それ以上言わないで。
 わたしは、鞄を机に置く。もう昼食を食べようとは思わなかった。あと2時間もすれば、両親が帰ってきて、晩ご飯だろう。
「ちょっと、シャワー浴びてくる、今日暑かったからさ」
 わたしは、自分の部屋で、替えのぱんつを取って、バスルームに向かった。
 まず、スカートを脱いで、それから、ベスト、ブラウス、肌着。
 ぱんつは穿いたまま、浴室に入る。
 シャワーを出しながら、ぱんつを脱ぐ。肌に張り付いて、硬い。
 すごい、おしっこのにおいがして。わたしはとぷとぷ、においが分からなくなるまでボディソープを出して、ふとももと、おしりと、おまたと、なんどもなんども、こすった。シャワーのお湯が、ひりひり、しみるような気がした。
 それから、バスチェアに座って、ぱんつをごしごし、洗面器で洗う。おしり、しびれるみたいな、何だかへんな感じ。ずっと、座ってたからかな。
 手のひらのなかで丸まった、白い布のかたまり。あ、忘れないように。靴下も洗わなきゃ。
 わたしはもう一度、肩からシャワーを浴びて、ぎゅうっ、衣類をしぼった。
 浴室を出る。バスタオルを取り出し、ぐるぐる巻く。
 靴下は洗濯機に放りこんで、ぱんつはどうしようか迷って、きっと洗濯は明日、それまで、乾きますように、祈りながら、さっき脱いだブラウスに、ていねいにくるんで、洗濯かごに入れた。
 制服を回収し、部屋に戻る。
 部屋着に着替える。
 ぱんつって、こんなにあったかくって、柔らかかったっけ。当たり前だと思っていた感触を忘れていた。
 誰も見てないよね? スカート、顔を押し付けてくんくんして、やっぱりおしっこくさくて、しゅしゅってするやつ、やれば平気かな。
 すごく、のどが渇く。
 リビングとつながったキッチンで、冷蔵庫を開け、良く冷えた麦茶を飲む。
「お姉ちゃん、さっき公園にいたでしょ」
 妹がまだテレビを見ながら、言った。
 見られてた! 呼吸がはやくなる。落ちつけ、ただ公園にいただけじゃないか。何も後ろめたいことなんて、してない。
「何してたの?」
「別に」
「テストできなくて、へこんでるんだと思った」
「なにそれ」
 ほんと、なにそれ。
「何もなかったなら、いいけどさー」
 あったよ。大変なことがあったんだ。
 でも、ぜったいひみつ。
 そう言えば、わたしの名前はあつこと言う。
 加々美あつこ。
 両親のネーミングセンスは、やっぱり疑わしい。



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