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少女たちは、もう駆けまわったり、植木の陰に隠れたり、ちりぢりに、あるいは、かたまって、広場を移動している。顔は知っているけれど一緒に遊んだことのない子たちも、次々にやってきて、どうする、誰にも見られずに立ち去れるか。
立ち上がるところは見られなくったって、後に残される、隠しようのない染みはきっと、見つかる。
どうしよう、木のベンチになんて、座らなければ良かった!
時刻はもうすぐ、4時。妹が帰ってくる。もしまた出掛けてしまえば、わたしは家には入れない。
子供たちが公園で遊ぶのは、だいたい5時までだ。わたしもそうだった。子供たちが帰るまでここにいるか? それとも?
日はずいぶん傾いて、柔らかくなった。あと1時間、どうする。
子供たちはひっきりなしに駆けまわっている。
すぐ隣のベンチに、上ったり、座ったりする子たちがいる。
わたしが立てば、きっと、このベンチにもやってくるだろう。そうすれば、わたしの恥ずかしいおもらしのあとを見つけるだろう。
立てない。
子供たちがいなくなるまで、ここで、待つしかない。
ひょっとして、下着はもう乾いているんじゃないか。
こっそり、本当にこっそり、布地を探り、指先をスカートの下に潜り込ませる。
じっとりと、蒸れたような、染みるような、感触。
乾いているわけ、ないよね。
さっと、指先を取り出す。
「あ、あっちゃんだー」
「こんちわー」
また、声。びくぅ。
もう半袖ハーフパンツの、男の子たち。妹の同級生だ。時刻は4時20分。妹はもう、帰ってきているだろうか。
待って。
妹がここに遊びに来たら、どうする?
家に帰っていない自分を、不審に思うだろうか。ここで勉強してるの、って言えば、納得してくれるだろうか。
一緒に帰ろう、って言われたら? 立ち上がるところ、見られなければ平気? もう少しここで勉強していくって言えば、平気?
考えながら、口元に手を当てて。
すごく、おしっこのにおいがして。
ふ、一瞬、めまいがした。
太陽はもう、ここからは見えない。けれどまだ、ずいぶん明るい。まだたくさんの子供たちが、遊んでいる。時刻は4時45分。
さっきから妹の姿をそれとなく目で探しているけれど、見つけられない。別の公園で遊んでいるのか、あるいは、家にいるのか。
この時間ならもう、ここに来ることはないか。
へばりつくような下着の違和感にも、慣れてしまった。
5時。
帰ろう、早くしないと、塾遅れちゃう、そんな声が聞こえる。子供たちが少しずつ、公園をあとにする。もう少しだ、もう少しで。
「あっちゃん、ばいばい」
女の子たちが声をかけて、走っていく。もう少し、もう少し。
背後の遊具ではまだ、何人かが遊んでいる。けれど、広場には誰もいない。5時15分。空はまだ、青い。
いまだ!
辺りをうかがい、立ち上がる。4時間ぶり、立ち上がる。くらっ、立ちくらみ、って言うんだっけ、一瞬、目の前が暗くなって、ふーって、倒れそうになって、ふんばって、立つ。腰が痛い。
去り際、ベンチが目入ってしまった。
座面の左はじ、くっきり、おしりのかたち。
見なきゃ良かった。見たくなかった。
それから、公園を出、駐車場を抜け、マンションの廊下、家の前。
まだ、水たまりは残っていて、けれど何人かが踏んだのだろう、さらにいびつに、長く伸びていて、いくつか、茶色く濁った足あとが見て取れた。
わたしのおしっこ、誰かが、踏んでいった。
ごめんなさい。
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