『サマー・レイン』
ー1ー
ぎらぎら、太陽が落ちてくる。
梅雨なんてすっかりどこかへ行ってしまって、昨日も今日も、暑い。
少女は片手で額の汗をぬぐい、パステルグリーンのチュニックのひらひらを揺らして、いっぱいに溜めたじょうろを、よいしょ、運ぶ。それからこくこく、蛇口を上向きにして、水を飲んだ。
夏休みが始まって、2週間が過ぎた。校舎をひとつ隔てたプールからは、にぎやかな声や号令が聞こえているけれど、この、花壇のある中庭を通りかかる人影はない。
花の名前の書かれた、乾いた土のつぶの跳ねた白い立て札の前にしゃがんで、彼女、中川あすの、は、黙々と草取りを続ける。
夏休みの花壇の手入れは、園芸委員が当番制で行う。5年生のあすの、は副委員長のひとりであり、仕事にも熱心である。今朝も、集合時間よりずいぶん早く学校へ来て、作業を始めた。
乾いた地面に、赤や黄色の花がこんもり咲いていて、その根元や、花壇を仕切るレンガのまわり、ひょろひょろとだけどずいぶん雑草が伸びていて、彼女は一本一本、ていねいに引き抜いていく。1週間でずいぶん増えちゃうなぁ。
振り向いて、時計を見る。今日はあと二人、園芸委員が来る予定なのだが、集合時間の5分前、仲間の姿は見えなかった。
福田さんとみさきちゃん、まだかな。いつも、早く来るのに。
一度、立ち上がって伸びをする。草取りはまだ始まったばかり、3人でやれば小一時間で終わるはずだから、それほど大変ではないのだけど。
もう一度、額の汗をぬぐう。軍手、土のにおい。
そのうち来るだろう。二人が来るまでに、やれるだけやっておこう。少女は再び腰を下ろす。
きゅうっ、
おなかのした、ちょっとだけ、もぞもぞする訴え。まァいいや、二人が来たら、行こう。
黙々、草を抜く。乾いた土、ひょいと抜ける。いつも、6年生で委員長の福田さんが、一生けんめい花壇の手入れをしている。色白で、背が高くて、花の名前をたくさん知っていて、優しい。
とっ、とっ、心臓が、すこし早くなって、ちょっと苦しいような感じになる。これ、って、恋だよね。少女は甘い恥ずかしい気持ちになって、うつむく。でも、口もと、にやにやしちゃう。わたし、福田さんのことが好き、なんだ。
じいわ、じいわ、じいい、蝉が、すぐ近くで鳴いている。夏、って感じ、するよね。
きゅううっ、
しゃがんでいると、おなかのした、どうしても意識しちゃう。おトイレ、行こうかな。振り向く、集合時間を、もう15分、過ぎている。どうしたのかな、何かあったのかな。二人とも来ないなんて。
もう少しだけ、待ってみよう。わたしがおトイレ行っている間にどちらかでも来たら、なんか、気まずいし。
デニムのショートパンツから伸びる、ふともも、ふくらはぎ、じぃんって、重い感じ。しゃがむって大変。でも、福田さんはいつも、笑顔で草取りをしている。かっこいいな。またわたし、にやにやしてます?
短いポニーテールの毛先が揺れる、うなじのあたり。じりじり、暑い。中庭は日影が多いから、なんて油断して帽子を持ってこなかったことは失敗だった。次は、ぜったい持って来よう。
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