ー2ー
 ぽす、ぽす、ぽす、小さな草を引き抜いていく。抜いた草は、とりあえず手の届くところに、まとめておく。あとで、ほうきで片付けちゃおう。
 もうすぐ、5分の2くらい終わる。ひとりでこんなにやったの? なんて、驚いてくれたら、ちょっとうれしい。にやにや。
 汗が、背中を流れる。暑い。キャミソールが肌にひっついて、気持ちわるい。
 おかしいな、二人とも、どうしたんだろう。
 立ち上がる。両脚、血液が一気に流れ込むような感じ。じぃんじぃん。腰を伸ばしながら、時計を見る。もう30分以上、過ぎている。やっぱり何か、あったのかな。
 プール開放の日だし、職員室には誰かしらいるだろう。先生に話したほうがいいだろうか。ついでに、おトイレにも行けるし。
 いっぽ、歩きだそうとして、でも。先生に言ったら、変に話が大きくなっちゃうかな。かえって、迷惑かけちゃうかな。ひょっとしたら、わたしが集合時間を間違えたのかもしれない。あとちょっとだけ、待ってみよう。水やりもしなきゃ。お花も、待ってるし。
 プールの方は、変わらずにぎやか。蝉の声は、もう聞こえない。あれ、空、暗くなった? ひょっとして雨、降るかな。今のうちに、抜いた草集めておいた方がいいかも。ええと、ほうきとちりとり。確か、中庭のはじの用具室。いつも、福田さんに持ってきてもらっている。鍵とか、いるんだっけ。

きゅ、きゅううっ、

 草、集め終わったら、おトイレ、行こう。

 わたしは、海にいました。
 青い海と、青い空と、白い雲。とてもいい天気です。
 わたし、吉田みさき、は、水着を着ています。欲しかった、オレンジの。
 友達が、何人か一緒です。
 その中に、彼がいます。それは、はっきり分かる。
 彼は、白いTシャツを着ていて、すそからは、白い長い脚が伸びていて。シャツのした、きっと彼も水着。わたしも水着だから。ちょっと、のぞいてみたいな、なんて、わたし、えっちかな?
 砂、熱いから気をつけてね、なんて、やっぱり彼は優しい。だいじょうぶだよっ、はやく、泳ごうよ!
 彼の水着姿が見たかったから、えへへ、うそうそ。でもはやく、海に入りたくて、わたしは白い砂浜を走って、はやくはやくぅ、漫画のなかだけかと思っていたけど、ほんとにやっちゃう、きゃっきゃうふふ。
 水、冷たくないかな? 波打ち際。ちょっとためらうと、一緒に入ろう、彼が言って、うん! わたしは、えいっ、ざぶん! おもいっきり、飛び込んだ。
 ふわって、おしりのあたりがあったかくなって。海の水、気持ちいいね、って。

ぴぴぴぴ、ぴぴぴ、

 何の音? そうだ、目覚ましの音。
 今日は、ええと、草取り当番の日。夏休みだけど、ゆっくり寝ているわけにはいかない。すごぉくいい夢を見ていた気がして、それだけがちょっと残念。
 寝がえりを打って、腕を伸ばして、枕もとの目覚ましを止める。

ぐしゅっ。

 え?
 お布団のなかが、びっしょり。
 え? え?
 眠ってるあいだに、何かこぼしたのかな。もしかして、誰かのいたずら?
 ぞくん、気味の悪い恐怖が、胸のなかで弾ける。
 がばっ、タオルケットを跳ねのける。
 パジャマのズボン、びっしょり。お布団も、びっしょり。
 まんまるい、染み。
 うそ。なにこれ。



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