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しばらくの後、再びシャッターが開いた。
まぶしい外のひかりを背に受けた男の影は紙袋を提げていた。少し近づいて、彼女にぽぉん、とそれを投げると、
「妹のだよ。着替えてこい。店番、俺がしてるから」
低い声で言って、また、店の外へ出た。
袋のなかには、女物の、デニムのジーンズ、靴下、ぱんつ、それから乾いたタオルとビニール袋が入っていました。
わたしは、もう一度個室に入って、まずタオルを濡らして、それから、びっしょり濡れて冷たくて重い衣類を脱いで、ビニール袋に詰めて、タオルで肌を拭きました。ひやり、そうだ、あの時と同じひやり。あれ、あれれ? デジャヴ?
星さんの妹さんの、星さん、妹さんいたんだ、衣類を身につけて。
「すいません、ありがとうございました」
、わたしは、店の外に声をかけました。陽ざしがまぶしくて、星さんの顔は、見えませんでした。
男はちら、と彼女を見、彼女を先に店に入れてから、自分も店内に入った。
「お前の服、洗ったか。まだなら、洗ってこい」
男は店の外を見たまま、言った。
「あ、ありがとうございます」
彼女は三度、店の奥へと消える。デジャヴ、と言うにはあまりに生生しすぎる思いとともに。
「今日はもう帰るか?」
事を済ませ個室を出ると、星さんは言いました。
「いえ、大丈夫です」
大丈夫です、ここに、居られます。
「あの、なにからなにまで、ありがとうございます」
「別に」
「お借りした服、洗ってお返ししますから、あの、妹さんにもよく、お礼を」
「分かった」
沈黙。
「あの、吉田さんが見えました。星さんに、よろしく、と」
「そうか」
沈黙。
「星さん、ファンタジー、お好きなんですか?」
「ん? まぁ、好きだよ」
「わたしも、好きです」
「例えば、何?」
それからわたしたちは、少し小説について話をしました。
楽しかった。
この時間が、いつまでも続けばいいのに。
そうだ、わたしはもっと、ここにいたい。
ここで、星さんや、お客さんと、いっしょにいたい。
ここは、わたしの、居場所だから。
「星さん」
「何?」
「お店、どうしても閉めないといけませんか?」
「ここはもう無理だ。金がかかりすぎる。でも」
「でも?」
「ここじゃないところを探している。なるべく近くて、もっと安いところ」
「え?」
「俺は、本が好きだから。店、続けたいから」
そんなこと、今まで一言も言ってなかったじゃないですか!
「倉井」
はい?
「新しい場所、見つかったら、また働いてくれるか?」
はい?
「聞いてんのかよ」
顔が怖いです。聞いてます!
「も、もちろんです! わたし、このお店、大好きですから」
「そうか」
このお店がなくなってしまうのはとてもさみしい、でも。
「吉田さんもそうだし、この店を好きだって言ってくれる人がいる。俺も、この店が好きだ。ここは、俺たちの居場所だから」
わたしたちの、居場所。
あの、星さん。
もうひとつ、聞きたいことが。
言おうと思ったけれど、なんだか不機嫌そうな顔をしていたので、やめました。
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