『姫君の採用面接』

ー1ー
 日曜の朝。
 青年は目を覚ます。頭の上の窓から透明なまぶしいひかりが注いでいて、ゆうべ眠りに落ちる直前に、わずかに開けておいたすき間からやってくる風は涼しい。もう、秋か。
 傍らで、彼女はまだ、くるりと丸くなっている。薄手の毛布の端を、きゅう、と握っている。寒かったかな、青年は少し眉を寄せ、それからそっと、布団で彼女を包んだ。

ふわり、

彼の鼻をくすぐるにおい。
 静かに、すばやく、毛布の下に手を滑り込ませる。彼女の温もり。シーツに、思っていた感触はなかった。
 それほど、量は多くなかったのだろう。しかし、はっきりとそれとわかるにおい。それとも、もう乾いてしまったのか。だとしたら、ずいぶん時間が経っているのか。
 やっぱり寒かったのかな。すません、先輩。青年は小さく頭を下げ、ゆっくりと寝室を後にした。

「おはよ」
 青年は、リビングのソファでテレビを見ている。そのソファの向かって右、寝室の出入り口から、彼女がちら、と顔をのぞかせる。肩より少し長い栗色の細い毛先が、あちこちにぴょんぴょんと跳ねていて、愛らしい。
 彼女はちょっと青年を見てから、ソファとは反対側のダイニングを抜け、その向こうの廊下へと、とてとて、消えた。青年はつい、その後ろ姿を目で追う。白いTシャツと、ブルーのジャージのハーフパンツ。体育着の女子高生、いや、女子中学生でも通るかもしれない、華奢なシルエット。いっしょに住んで、もうずいぶん経つのだけれど、やっぱりかわいいと思う、青年は、くすぐったさをくちびるで噛む。
 ぱたん、扉が閉まる遠い音。直前の彼女の後ろ姿、青年の視線の先の、柔らかなブルーの布地は、青年の思った色にはやはり、変ってはいなかった。
 少しして、彼女はすたすたと戻り、再び寝室へと消える。かたかた、タンスを開ける音がして、彼女がまた、寝室から廊下へと向かう。
 今度は、さきほどの扉の手前、脱衣所に彼女は消え、かたん、扉の閉まる音。しばらくして、白いTシャツと、そのすそから少しだけのぞくピンクの綿のショートパンツと、それからほのかな湯気のにおいをまとい、彼女は青年のとなりに、んしょ、腰を下ろす。ふわぁん、ソファの座面が弾んで、彼女も弾むように、青年の腕に頭をあずけた。
 ひゅう、風が抜ける。
「涼しいですね、もうすっかり秋だ」
「まだ暑いよ」
「こっちの窓も開けます?」
「ん、別に。ゆぅくんがいいなら」
 テレビはついているけれど、見ているわけではない。
「あっち、窓全開だから」
「少し、開けときます?」
「うん」
「換気ですね」
「うん」
 音楽番組が始まる。日曜の朝、だ。
「におい、した?」
 彼女の頭が、少し、動く。青年は首を、彼女の方へと向ける。彼女はうつむいていて、顔は見えない。
「何のですか?」
 青年はつとめて、語気の乱れを悟られぬよう、言う。
「、おしっこ」
 彼女の表情は見えない。けれど、きっとくちびるは尖っているだろう。
「別に、気づきませんでしたけど」
 さらにつとめて、悟られぬよう。けれど、愛おしい気持ちが次の言葉を紡がせた。
「おねしょ、しちゃいました?」
「うん」
 くちびる、絶賛尖り中。



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