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「ああ、大丈夫! 明日、消臭剤でもかけて干しておけば、ぜんぜん、平気!」
「あ、ありがとう、ございます。すみません」
「それよりナオミ、着替えは? 手伝うことはある?」
「あ、いえ、大丈夫です。自分で出来ますから。」
「実はさナオミ、わたしもおねしょしちゃってさ。洗濯機、今使ってるんだよね」
ジュリアがぺろりと舌を出して言った。洗濯機待ち、なんだか、面白い。
「では、その、シャワーを浴びてきていいですか? お洗濯と後始末は、着替えてから、自分でやりますので」
「うん! 分かった。もし、お手伝いすることがあったら、声かけてね!」
「はい、ありがとうございます」
ナオミはこちらを向いたまま、こそこそ、浴室へと消えた。ラベンダー色のネグリジェのおなかのあたりを、ずいぶん気にしながら。
彼女を見送って、わたしとジュリアは顔を見合わせて、笑った。なんだか、ナオミと心が通じ合ったような気がしたから。
私たちがゆっくりココアを飲んでいるあいだ、ナオミは着替えと後始末を済ませて、ご一緒してもいいですか。ソファに座る。ちょうど、洗濯が終わって、干してきたいけど、ひとりじゃ怖いよー、ってジュリア。浴室に干しておけばいいんじゃないでしょうか、明日、朝になったらお外に干しましょう、ってナオミ。
それから、ナオミもお洗濯。待っているあいだ、また、居間でおしゃべり。
「ごめんねナオミ、わたし、ナオミの気持ち、考えてあげられなくて」
「いいえ、エミリーが企画してくれたから、こんなに楽しい会をひらくことができました。わたしのほうこそ、ごめんなさい、恥ずかしくて、うまく言葉に出来なくて」
「ううん、ナオミがちゃんと声にしてくれたから、わたしも気づくことができた。ありがと、ナオミ」
朝が来るまでまだ時間がある。このままずっとおしゃべりをしていたいくらいだけど、明るくなったらお洗濯干したり忙しいから、やっぱり、寝ようか。この夜が終わってしまうのが惜しくて、でも、眠いのに勝てなくて、わたしたちは名残惜しく明かりを消して、布団にもぐった。
「エミリー! 朝だよっ! ジュリアとナオミが朝ごはん作ってくれたよ!」
幸せなまどろみからわたしを呼び出したのは、アンナの声。
夜更かししたせいか、まぶたがまだ重い。できればもう少しねていたいところ。ふと目をやると、窓からまぶしい日差しが注いでいて、よかった、いい天気。庭の物干しには、もうシーツや布団がかけられている。ジュリアもナオミも早起きだなぁ。見れば、3人の布団はもう片付けられていて、寝ているのはわたしだけ。
「コーヒーが冷めてしまいますよ、お二人さん」
ナオミが階段から顔を出す。はーい、今行きまーす。アンナが元気よく答えた。はーい、わたしも答えて、
「あのさ、アンナ。その」
あ、やっぱり、恥ずかしいね、
「着替えなきゃいけないから、先、行っててくれる?」
、わたしは告白した。
「はい。じゃあ、先行ってるね!」
とっとっとっ、アンナが駆けて行って、階段で待っていたナオミに何か声をかけて、二人で上がっていった。
体を起こして、かけ布団をめくる。ぐっしょり濡れたお布団。普段はおむつしてるから、こんなに濡れた布団を見るのは久しぶり。ああぁ、お風呂で良くあったまったのになぁ。ココアが良くなかったか。
立ち上がろうとすると、パジャマがぺたんとはりつく。体温であったまってしまったのか、そんなに冷たいとは思わなかった。もしかしてずいぶん、濡れたままで寝ていたのか。ふわり、おしっこのにおい。おしっこのにおいって、よく焼いたさんまのにおいに似ていると思うんだけど、同意を得られたことはない。っていうか、誰にも話したことがない。
着替えを済ませて、濡れたシーツと服を洗濯機に放り込んで、ごめんね、お待たせ。
4人で囲む食卓。パン、サラダ、スクランブルエッグにベーコン、きれいに盛り付けられたたくさんの果物。さんまの塩焼きだったら、においの話、できたかな、なんて。食事時にする話じゃないか。いただきまーす!
あれ、もしかしてアンナ、おねしょしなかったの? えへへ、そうみたいです。すごーい! 3人から拍手。
「ねえエミリー、この辺りは冬、雪は降りますか?」
ナオミが聞いた。
「うん、冬に来たことはないけれど、近くにスキー場もあるから、かなり降るんじゃない?」
ナオミとジュリアとアンナが顔を見合わせて、にっこり。
え、何?
「わたし、トロントにいたころ、よくスキーをしたんです」
へぇぇ、かっこいい!
「エミリー、わたしたちからお願いがあるんだ」
他の2人と同じにこにこ顔で、ジュリア。お願い? 何? 何?
「この場所で、冬の特別合宿の開講をお願いします!」
3人の声が、きれいに重なった。
「もちろん!」
わたしはきっと、3人に負けない笑顔で、力いっぱい答える。わたしのほうからお願いしたいくらいだよ!
「今度は4人で計画を立てて、もっともっと素敵な合宿にいたしましょう!」
ナオミが胸の前で手を合わせて言った。
いっぱいに降り注ぐ朝陽が、髪を、4人の顔を、きらきらと輝かせていた。
これは、奇跡みたいな本当のお話。わたしたちの、ワンダフル・ナイト・パーティのお話。
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