−5−
 他の二人はぐっすり眠っているみたい。そうっと起き上がって、ジュリアの片手を握って、上へとあがる階段に向かった。
 階段を上って、明かり、つけていい? 聞くと、うん。ジュリアが答えた。
 ぱちん。
 白熱灯がともる。まぶしくて、ちょっと目を細める。ジュリアもおんなじ顔。片手に、丸めたシーツと、多分パジャマを抱えている。
 居間の裏側、っていうのかな、台所と浴室があって、洗濯機もそこ。おそるおそる明かりを点けながら、洗濯機までたどり着いて、よいしょ、丸めたシーツを放り込む。よし。
「洗濯、明日にする?」
 わたしが聞くと、
「もし、ナオミが洗濯しようと思って起きてきたら、きっとわたしのものも洗わなきゃいけなくなっちゃうから、今、回しちゃおう」
 って、言って、うん、そうだね。
「洗濯終わるまで、一緒にいてくれる? エミリー」
 うん、もちろん。
 居間のソファで2人。あぁ、この時間にしちゃうこと、あんまりないんだけどな。さすがに飲みすぎたかな。わざとらしくジュリアは顔をしかめて。そうだね、わたしも明け方にしちゃうことが多いかなぁ。
「変なこと、聞いていい?」
「何?」
「エミリー、今おむつしてるの?」
「ううん、してないよ」
「普段はおむつなんでしょ? どうして?」
「明日、天気よさそうだから。普通にシーツ干せるかなって。やっぱりおむつは蒸れるから、できればあんまり、穿きたくないんだよね」
「そっかあ、そうだよね」
「ジュリアはおむつ、しないの?」
「わたしも、普段はしてるよ。ベッド濡らしちゃうと大変だから」
「今夜はしなかったの?」
「布団だから、干せるかなって」
「なるほど」
 こんな話、お友達とできるなんて、夢にも思ってなかった。なんて素敵なめぐりあわせなんだろう。ナオミやアンナも、同じ気持ちだといいな。
「あったかいもの、飲もうか。ココア、好き?」
「うん、好き」
「じゃあ、作ってくるね」
 わたしは台所で牛乳を温める。洗濯が終わるまで、まだかかりそう。淡いあたたかい湯気の立つカップを二つ、はい、どうぞ。ありがと、エミリー。
 両手で抱えて、口を付ける。温もりが体の奥まで沁みていく。すごく、幸せな気持ち。
 ことん。
 物音がする。わたしもジュリアもびくっとして顔を上げた。階段のかげ、ことん、ことん。
 なに、さっきのホラー映画の一幕が頭をかすめる。どっどっどっ、急に鼓動が早くなって、ぎゅ、ジュリアがわたしの手を握った。なんの音!?
 階段から、あたりを窺うように顔をのぞかせたのは、ナオミだった。
「なんだ、ナオミかぁ、びっくりしちゃ、」
 って安心したわたしを、ジュリアがこつん、小突いた。
 なに?
「エミリー、約束」
 小声で耳打ち。そっか! 気づかないふり、だった!
「ジュリア、ココア、おいしいね!」
「そうだね! わたしココア大好き!」
 はた目から見てもわざとらしい。自分でも分かったけど、どうかナオミを、傷つけませんように!
「ありがとうございます、エミリー、ジュリア。わたし、お二人がいるのを知っていて来ました。普通に、話してください」
 ナオミの、優しい声。ふふふっ、少し、笑ったようにも見えた。
「いいの? ナオミ」
「はい」
「起こしちゃった? 下まで声、聞こえてた?」
「いいえ、その、」
少し言葉に詰まってから、
「おねしょ、してしまったんです。暗くてよく見えなかったんですけど、もしかしたら、お布団まで濡らしてしまったかもしれません。それで、どうしたらいいか分からなくて」
 申し訳なさそうに眉を寄せて、ナオミはうつむいた。



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