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「エミリーは、いよいよ3年生ですね。進路はもうお決まりですか?」
 さんまの塩焼きを丁寧に箸でほぐしながら、ナオミが言った。さんまの塩焼きのにおいっておしっこに似てると思うんだけど。いや、食事中にする話じゃないな。
「ううん、まだ考え中かな。でも、勉強したいことはあるんだ」
「昨日の話?」
 納豆をかき混ぜながらジュリア。和食を食べてる時間の方が短いはずなのに、二人ともお箸の使い方、上手だなぁ。
「まだうまく言えないけど、夜尿症について、たくさんの人にきちんと知ってもらいたい、って」
「そしたら、おねしょ、恥ずかしくなくなるかな?」
 おにぎりをほお張るアンナ。具は? きゃら蕗です。なにそれ!?
「そうかもね。修学旅行まで間に合うかどうかは、ちょっと分からないけど」
「あれ、ナオミも受験?」
「わたしは、中高一貫ですので、ことしは受験はありません」
 そっか、私立だったっけ。
「でも、エミリーが受験なら、今年の夏のお泊まりは難しいかな?」
「え〜、やりたい〜」
「エミリーがやりたいって!」
「たまには息抜きも必要ですからね」
「なんとかして夏、またお泊まりしよっ! またみんなで集まれるように、しっかり勉強するから!」
 なんて、ちょっと口からでまかせ、かも。
「まぁ、いつでも会えるし、連絡も取り合えるんだけどね」
「そうそう! アンナの修学旅行までにおねしょが治るように、みんなで協力したいし!」
「わ、あ、ありがとうございます! でも」
「でも」
「昨日のエミリーの話を聞いて、わたしもおねしょのこと、発信したいなってちょっと思ったんですよね。ツイッターとか見てると、わたしより少し年上の人が、毎晩おねしょしてますって濡れたおむつの写真とかアップしてて、こういうこと言えるって、すごいなぁって思ったりしてましたし」
「アンナ、それってもしかして」
「え?」
「そもそも、13歳以下はツイッターアカウントを持てません」
「えぇ、そうなの?」
「わたしにもさ、恋人ができたときおねしょのことなんて言えばいいか、アイディアがあったら教えてよ!」
「それはジュリアが一番くわしそうな気がするなぁ」
「みんなのアイディアが聞きたいの! ナオミも、頼むよ!」
「は、はい。わ、わたしもしっかり考えないといけない、と思いました。大切な人に、自分のことをどう伝えるのか」
「うん! ナオミなら、きっとできる!」
「どんなに仲が良くても、伝えたいことは、きちんと伝えないといけない、伝えたいと、改めて。ね、ジュリア」
 え? ナオミそれ、どういうこと?
「さて、洗濯が乾くまで、もう少し時間があるね。何かする?」
「おなかいっぱいになったら、わたしまた寝ちゃいそう〜」
「だいぶ夜更かししたからねぇ。寝てたら、起こすよ」
「じゃあ、いまのうちにおむつ穿いておこうかな。どうせ、タクシーに乗る前には穿こうと思ってたし」
「わたしも穿いておかないと。今日は、帰る途中に寝てしまいような気がします」
「わたしも、ここを出る前には穿くよ」
「あ、あの、わたしにももう一枚、その、おむつ、貸してもらって良いですか?」
「いいよ、いっぱいあるから。なんなら少し多めに持っていく?」
「じゃあ、撮影用に、、、」
「だめです! アンナ!」
「冗談だよぉ!」

 楽しい時間って、どうしてこんなにあっという間なんだろう。
 筋肉痛でからだは重いし、今にもまぶたが落ちてきてしまいそうなくらい眠かったけれど、わたしはとても名残惜しくて、この瞬間が終わって欲しくなくて、4人で過ごせる時がこんなにも大切なんだって、改めて感じながら。
 おねしょのこと、夜尿症のこと、打ち明けたくてもきっと誰にも話せないで悩んでいる人、きっといると思う。おねしょや夜尿症のことを、子どもがするもの、とか、恥ずかしいこと、って思っている人もたくさんいると思う。ほんのちょっとかもしれないけれど、おねしょや夜尿症が、「当たり前」になるといいと思う。ひとりで抱えなくて良くなって欲しいと思う。
 わたしたち4人に、こんなにすばらしい奇跡が起こったのだから、きっと世界中に、奇跡が広がるんじゃないかって、なんとなく思うんだ。
 さぁ、今度はわたしが、そしてあなたが、奇跡を起こす番。あなたの夢を叶えるための一歩を踏みだしてみて。大丈夫、あなたはぜったいに、ひとりじゃないから!



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