―2―
 高校の仲良し4人組、集合は17時半で、さんざん食べて、飲んで、おしゃべりして、帰ろうか、って話しになったのが21時半過ぎ。ええ、もうちょっとおしゃべりしよ、っていうかちょっと聞いてほしいことがあるんだけど、って、本人以外は全会一致のトークリーダー、平野さんが言って、商店街からちょっと離れたファミリーレストランに入って、あれ、でもファミレスって10時までしかいられないんじゃね? って、わたし的ファッションリーダーの山野さんが言って、大丈夫大丈夫、制服着てなきゃばれないから、って、平野さん。
 なに話したんだかぜんぜん覚えてないけど、気が付いたら23時を回っていて、あ、終電は? って、自称ツッコミの時点でボケ担当の高橋さんが言って、わたしははじめて終電と言う存在に気付いた、はい、ばかです。わたしよりさきに平野さんがアプリで調べはじめて、あ、もう電車ないよ。
 わたし以外の三人はみんな、ファミレスから歩いて帰れる。ええぇ、ちょっとどうしよう、わたし帰れないじゃん。うろたえるわたしに、いいよ、今日はみんなでオールしよう、って、すごいさわやかな笑顔で平野さん。じゃあ、わたしも、って、たぶん帰るのが面倒になった山野さん。あ、ごめん、わたし帰るから、って空気読めよ高橋さん。
 それから、始発が動くらしい5時過ぎまで、ずーっと、おしゃべり。主に平野さん。もう一回言うけど、なに話したんだかぜんぜん覚えてなくて、でも、わたしオールとかしたことないんだけど、って言ったら、始発で速攻帰れば変わんないよ、って、誰が言ったんだっけ、わたしはその言葉にすっかり気を許してしまった。
 結果がこれだ。
終電を逃した時点でお姉ちゃんにメールをした。オールしてくから。親によろしく言っといて。始発で速攻帰るから。玄関、開けといてください。
 バス待ってたら家につくの何時。歩いて帰るのとどっちが早いんだろ。でもここで一時間待つのはないでしょ。乳酸菌飲料をふた口飲んで、よし、かのんはまだ、がらんとしたロータリーを駆け足で横切った。
 駅前の商店街を抜ける。まだどのお店もシャッターが降りている。空はもうずいぶん明るいのに、人気のまばらなアーケードがちょっと新鮮だった。商店街を過ぎると、幹線道路。確か国道なんとか。スピードを出している車が多い。空いてるからかな。
 背中を汗が流れるのが分かる。飲み物はもう半分くらいまで飲んでしまった。スマートフォンを見る。歩き始めて30分は経った。
  ここ右だ。幹線道路を離れ、住宅街に入る。あちこちから蝉の声が聞こえる。木とかあんまりないんだけど、どこにいるんだ、蝉。
 申し訳程度の歩道が添えられた、住宅街の間の一本道。バス同士すれ違うのがやっとなくらいの道のくせに、けっこう車が通る。ここ、いつも渋滞してるんだよね。
 疲れた、とは思わなかったけれど、さすがに厚底サンダルの指先が痛い。これ皮むけてる感じかな。こんなに歩いたの、いつ以来だろ。普通30分とか歩かないよね。だらだら、あんまり変わり映えしない住宅街。えーと、もう半分過ぎたかな。

きゅう。

お腹のしたで、控え目な訴え。
あ、おしっこ。
 3時くらいに眠さのピークが来て、やばいまじ寝たいんだけど、山野さんは完全に机につっぷしてて、でも平野さんの相手もしなくちゃいけなくて、もう限界、ちょっとトイレ、
おしっこしながら、意識飛んでました。
 それから、ドリンクバー、3杯は飲んでる。でもこの暑さ、空はもう昼間と同じくらい明るくて、これ、今日も暑くなるでしょ。みんな汗になっちゃうよ。首まわりがすごい蒸れる感じがして、両手で髪を束ねる格好をするけれど、ついこの間切ったばかりの襟足は結べるほど長さはなくて、その割にあごの下あたりまで残した両サイドが、うっとうしい。手首のシュシュは飾りものです。がっつり高校生を主張する、黒髪ショートボブ。眉ぎりぎりのぱっつん前髪は、せめてものおしゃれのつもりなんだけど。




←前へ 次へ→