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とは言え、締め切り前に原稿が進まなくなるのは、そうだけに限った事ではなくて、だから、というわけではないのだけど、文芸部にはもうずいぶん続けられているらしい、学園祭前恒例のイベントがあった。
通称「カンヅメ」。部員誰かの家に押しかけ、ほとんど徹夜で原稿を仕上げる。場合によってはそれが、3日、4日と続く。中学生を4人も5人も、よく快く泊めてくれる家族がいるものだと、そうの母は目を丸くしていた。
一年生のとき、そうは「カンヅメ」に参加することができなかった。泊まり先のご家族に申し訳がない、父も母も、その一点張り。けれど今年は、そうの根気のほうが勝った。だってみんな参加してるし、これで部員のつながりが深まるんだよ、わたしだけ、仲間外れになってもいいの? 思いつく限りの理由を並べて、押し切った。
金曜日、学校が終わったら、3年生の部長の家に集合。食事は、各自コンビニで調達。それから、一晩徹夜。土曜日も朝から創作活動。お昼は近くのファーストフードで。それからまた創作活動。日付けが変わって、日曜日の、午前3時頃、明日も一日、原稿用紙に向かえる。ちょっとだけ、寝る? 先輩が言った。明日もう一日ある、慣れない徹夜で、朦朧としていたそうは、その言葉に甘えることにした。灯りが消される。2階のひと部屋に、部長も含めて、女の子5人。男子部員2人は、リビングで雑魚寝。ベッドはとうぜん部長が使って、そうたちはおもいおもい、決してやわらかくはないカーペットに転がった。
常夜灯のくすんだ光を見たかどうか、それすらおぼろげなまま、そうは眠りの世界に引き込まれていた。
いいかげんにして!
光の刃がわたしを切り裂き、四方八方に飛び去っていく。
光って、こんなに温かいのか。皮膚の上を、温かい、温かいひとすじの光が、滑っていった。まぶたが重い。わたしは起きているのか。自分自身が叫ぶ声で、目覚めたのか。あれは夢だったのか。大声を出した後の、ちくちくするのどの痛み。腰のあたりに、まだ温かさが残っている。残っている、じゃない、温かさが、拡がっていく。太ももから、横たえた体の右下のほうへ、腰から、胸のあたりまで、温かな光。違う、光じゃない、液体だ。液体が今まさに、流れている。え、うそ。
がぁん、そんな音が聞こえた気がする。状況を受け入れたからだが硬直する。金縛り、なんかじゃない、今自分に何が起こっているのか、分かってしまったから、動けないんだ。光が急速に熱を失い、からだの下で停滞する。今の自分に、言葉を与えていいものか。言葉を与えたら、受け入れなければならない。わたし、わたし、
おねしょしちゃった。
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