―3―
 それから、みんなのプレゼントが開いて。またひとしきり、おしゃべりをして。しょうたくんともずいぶん話した気がした。そうだ、おしっこ。
 さっきから、上半身が不自然に揺れている。まだ我慢できそうだったけど、べつに我慢するところじゃないし。ひーちゃんもトランプのあいだにおトイレ行ってるから、恥ずかしくもないし。よし、行こう。
「佐々木と話すの、久しぶりだよね」
え。
しょうたくんが言った。
 立ち上がろうと浮かした腰が、またゆっくり、おねえさん座りにもどる。
「今日はふつーに話せてさ、良かったんだけど。なんか最近、佐々木よそよそしい感じしててさ」
 うそ。
そんな風に思われてたの。
胸の中に、手を入れられたような、ざわざわ。
「そんなことないよ、意識しすぎ」
意識しすぎは、わたしのほうだ。
「そう? なら、いいんだけど」
 何か言わなきゃ。学校のこととか友達のこととか、とにかく話をしたくて。考えるより先に言葉がこぼれる。うわのそら、って、こういうのを言うのかな。何か話しているんだけど、何を言っているのかぴんとこない。でも、沈黙が怖くて、先生のこととか遊びのこととか、次から次に、声に出して、気持ちが、おいてけぼりになる。
 くるしいよ、せつないよ。こんなに楽しいのに。ずっとお話ししたかったはずなのに。しょうたくん、笑ってくれてる。でも、わたしがほんとに言いたいのは、そうじゃなくて。
 小学校のなかよし6人。笑い声があふれていて、とぎれなくて。もう少し、もう少しこうしていよう。わたし、しょうたくんのこと、誰かの声と重なるように、気持ちがあふれそうになって。でも、言葉が引っかかって。それからまた、おしゃべりして、笑って。
 どれくらいそうしていたんだろう。あ、一瞬笑い声が途切れる。今日何度目かの、天使の通過。
「ちょっと、ごめんね」
 自然にそんな言葉が出て、わたしは立ちあがった。立ち上がって、おしっこ我慢の限界をとうに超えていたことを知った。
 姿勢が変わったとたん、お腹の中をつかまれたみたい、かちかちになったからだを感じる。おもわず、からだを折り曲げる。
部屋を出るまでに、友達が二人座っている。よけようとして、足の着地場所をさがして、ふらふらしているそんな間、違う、からだが、おしっこを我慢しようとして、必死で良い態勢を探してるんだ。何この感じ、りょうほうの膝がくっつきそうになるくらい、前かがみにならないと、からだがいうことを聞かない。何、この感じ。
 一歩、一歩、足をすすめる。ひとり、友達の背中を通り過ぎて、おしりを突き出したような、へんなかっこうだ。もうひとり、背中を抜けて、扉を開ける。がくがく、どこかわからないところが震えている。見られてないよね?
 部屋を出る。扉を閉める。まっすぐな廊下。聞こえる笑い声が遠い。つきあたり左がトイレ。前進する。歩いている、と言うより、床を滑っているみたい。ほんの数メートル、目に映るものが、すごい速度で後ろへ流れていく感じ。扉を引く。目の前に、白いおトイレ。最後の一歩を踏み出して、後ろ手で扉を閉める。鍵は、座ってから閉めればいいから、早く。

あ、あれ。

し、しゅ、ゅゅゅゅ、ゅぅ、
 スカートをまくりあげて、腰をおろしながら、下着に指をかけて、座って、お腹に力を入れて、それで、いつもなら、そうするはずなのに、

し、しゅ、ゅゅゅゅ、ゅぅ、

 扉を閉めて、おトイレと向かい合って、次の瞬間は、まったく予想していなかった出来事だった。
 とっさに、スカートの上からおまたを押さえる、右手。熱い、びっくりして、手を離す。何を見ようとしているのか分からないけれど、首が上に動いたり下に動いたりして、視界の隅でとらえた右手は、濡れてひかっていた。

た、たたたたた、ぴちゃ、




←前へ 次へ→