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10分ほど歩く。ずいぶん、狭い道に入ってきた。両側は塀か、ぞうき林みたいになっていて、その向こうに、ぽつん、ぽつん、家の灯りが見える。
「けっこう山の中じゃない? りょうくん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、よく行ってるもん」
相変わらずとたとた、小走りの背中。離されたくなくて、少し早足になる。
「こっち」
ふっと、彼のからだが右に折れ、見えなくなる。あわてて追いかける。畑か何かだろうか、街灯のあかりでは見渡すことができない広い暗がりのあいだ、きっと車一台通れるかどうかの、細い上り坂があって、彼はひょこひょこ登っていく。その背中がやけに小さく見えて、ゆきのは急いだ。
「追いついたァ!」
「ねぇちゃん、待ってよ!」
りょうくんを追いぬいてしまうと、彼はむきになって走って、気づいたらふたりで、鳥居をくぐっていた。
学校の教室くらいだろうか。決して、広くはない境内。正面に、神社があって、右手には倉庫か物置か、建物があって、左手はなんだろう、斜面だろうか、暗くてよく見えない。
土の匂いが、とたんに強くなったような気がする。3つ、よたよたひかりを落としている街灯があるけれど、神社全体を見渡すことができない。でも、はじめてくる場所ではない。見覚えがある。たしかお正月の初もうでが、ここだった気がする。
「ねぇちゃん、火つけてよ」
灯りの下、りょうくんはがさがさ、もう花火の口を開けていて、さいしょはどれにしようかな、やっぱスパークかな、なんて、品定めをしている。
「ちょっとまって、お水汲んでからね!」
境内を見渡す。蛇口らしき場所は見つからない。
「ねぇ、りょうくん。いつもお水、どこで用意してる?」
「ええ、じんじゃのとなり、ほら、あそこ」
手に取った花火で指された先、神社の左わきに、たしかに小さな蛇口があった。小走りでむかう。怖い、わけじゃなかったけど、駒犬と目が合うのは嫌で、下を向いたまま通り過ぎた。
蛇口をひねる。ひんやりしている。クモの巣にでもぶつかったのか、太ももになにかがはりつく感じがして、ぞわ、背中をきもちわるい感じが走った。ぱしゃぱしゃぱしゃ、バケツに水がたまる。そうだ、わたし、おトイレ行ったっけ。おなかの中が少し、重く感じた。
「ねぇちゃん、早く、火!」
ふたりきりの境内に、甲高い声が響く。
「ちょっと、声大きい!」
ゆきのは人差し指をくちびるの前に立ててから、わざとゆっくりと、彼のもとへと向かった。
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