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きゅう。両あしのつけ根の地面にいちばん近いところが、すこしだけふるえた気がした。そっか、これ、おしっこするときの格好だ。急に、お腹のなかが重く思える。
「りょうくん、これ、終わったら帰ろうか。遅くなっちゃうよ」
はーい、返事をして、りょうくんの花火が、ぽとん、落ちた。
「りょうくんの負け」
「ええぇ、もう一回!」
「しょうがないなぁ、もう一回だよ?」
おしっこしたいから帰りを急かしてるみたいで、さすがに大人げないか、もう一回、付き合うことにした。
火をともす。ぱちぱち、火花がはじける。ゆきのは片ひざを地面についた。土の湿っぽい感じ、小石だろうか、むき出しのひざに、小さな痛みがはしった。体勢をかえると、おなかは少し、楽になる。
「あぁ、また負けた!」
ぽとん、りょうくんの火が落ちる。わたしのはまだ、かたまりになったばかり。細い火花はふき出している。これが終わったら帰るから。だんだん重くなるおなかのしたに言い聞かせる。ぱちぱち、ぱち、糸のような火花が、いつまでも流れだしていて、どうしてこんな時にかぎって、もどかしくて、じっと、ひかりを見つめる。
「ねぇちゃん、おしっこ」
ふいに、あたまの後ろから声をかけられた。
え? あわてて顔をあげる。ぽとん、ひかりが落ちる。りょうくんは立ちあがって、きょろきょろしている。
「おうちでるとき、おトイレ行った?」
「行ったよ。でも」
ゆきのは線香花火を水面に落としてから、それからよいしょ、バケツを持って立ち上がる。思ったより重い。ぎゅ、おもわず、おなかに力が入る。ちゃぷん、バケツが音を立てる。
「おうちまで我慢できる?」
「うん」
「じゃあ、はやく帰ろう。花火持って」
「うん」
歩き始めると、一歩一歩が下腹部にひびく。かなり、おしっこしたいかも、大丈夫かな。
坂道をくだる。より振動がきつくなる。はやく、たいらにならないかな。
片手に提げたバケツが、てのひらに食い込んで痛い。反対の手に持ち替えようとして引き上げると、ぎゅッ、おなかが押されるような感じ。あわてて、力をいれなおして、押しかえす。
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