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 布団のなかはもうすっかり冷たい。腰やおしりにぺったりとはり付く衣類が気持ち悪い。おしっこのにおい、さっきから、鼻のうえにくっついているみたい。すごく、気になる。
 どうしよう。
 大きく息を吐きだす。
 お祖父ちゃんお祖母ちゃんを起こしに行こうか。それともこのまま隠せる方法があるだろうか。お水こぼしちゃいました、とか。中学1年生でおねしょなんて、できれば、誰にも知られないように後始末でしたいのだけど、どう考えたってそんな方法は思いつかなくて。
 そのうち、カーテンの向こうから、ほそい光が伸びていて。冷たい、朝の空気の色。
 よし。わたしはかけ布団をはねのけた。それから、ぎゅっとくちびるを結んで、起き上がる。立ち上がる。ちょっと振り向く。うすあかりに浮かぶ白い布団と、そのまん中、おおきなグレーの世界地図。
 くちびるを結んだまま、ゆきのは枕もとのリュックサックに手を伸ばす。ショートパンツ、Tシャツ、それから、ビニール袋を開いて、昨日の下着。すこし考えて、まずぜんぶ、脱ぐことにした。
 パジャマの上下、カップ付きのキャミ、それから、ぱんつ。
 昨日使って、部屋に干しておいた、バスタオルを手に取り、床の間から、ほそい廊下をはさんだ向こうは、浴室。いちおう、バスタオルをからだに巻いて、ぬきあし、さしあし。脱衣場の重い扉を開ける。がら、音がひびく。息を止める。物音はしない。
 浴室の大きな窓からは、白い朝のひかりがいっぱい注いでいて、日焼けした太ももと、そうでないおなかとがぽっかり、ひかりのなかに浮かんだみたいで。
 シャワーをひねる。冷たい水。床に敷かれたマットに当たって、すごく、大きな音がして。あわててヘッドを壁のタイルに向けた。すこし待ったけれど温かくならなかったので、しゃがんで、そのまま下半身を流す。プールの前に浴びるシャワーより、もっと冷たい気がする。とりはだ。
 深呼吸をして。浴室を出る。まだ物音はしない。またバスタオルを巻き、部屋に戻る。やっぱりおしっこのにおい。またくちびるを結んで、服を着る。キャミの肌ざわり、とってもあったかく感じた。
 布団のうえに放られたパジャマ。たぶん、水洗いした方がいいよね。お風呂場で洗おうか。でも、だれか起きたら? ぐるぐる、胸のなかで気持ちがうずを巻く。ほとんどがきっと、はずかしさ。
 でも。わたしもう、中学生だから。
 自分の失敗は、自分で責任を取ります。
 それで。
 自分ではどうしようもないときは、きちんと誰かに相談します。
 パジャマを両手に抱えて、もう一度浴室を目指す。洗面器に水を張って、ざぶざぶ、服を洗う。何回ぐらい流せばいいんだろう。おしっこのにおい、しなくなるまで。2回、3回かな。
 ぎゅってしぼってから、バスタオルでくるんで。さぁ。



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