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「ええと、彼氏さん、趣味とかは?」
「さぁ、よく知らない」
「好きな物とか、あるいはブランドとか」
「煙草はよく吸ってるよ。それで胸が痛いとか、よく言ってる」
「なんすかそれ」
「ええぇ、なにが良いかなァ」
「聞いてみたらどうすか? 何が欲しいか」
「えぇぇ、恥ずかしいんだけど」
「わぁお、恋する乙女的発言」
 それから、しばらくの沈黙。駅ビルを抜ける。雑踏のあいだ、とりあえず、少し歩いた百貨店を目指す。いちばん無難だろう。知ってはいたけれど、空が青い。夜は冷えるかもしれない、なんて、一枚多く羽織った上着のなか、汗がにじむ。
 人ごみの向こうの、喫煙スペースが目にとまった。
「すません、一本、いいですか」
 からだをくねらすみたいに人をすり抜け、灰皿の前に立つ。それから振り返らずに上着のポケットから煙草を出し、火をつける。大きく煙を吐く。俺、嫉妬してるのかな。
「君も煙草、吸うんだ」
 背後から声がして、振り返る。先輩はスマートフォンを手にしていた。
「まぁ、ちょっとだけ」
 メンソールの細い煙草。吐き出すと気持ちが軽くなるような気がして、いつからだったか、吸い始めた。
「あ、ジッポとかどうすか?」
「なにそれ、よく分からない」
「煙草に火つけるやつです。けっこうお洒落なのとかありますよ」
「ふぅん」
「とりあえず、見てかんがえましょうか」

 半分ほど吸って、もどかしくなって、灰皿に詰め込む。ひとつ会釈をして、また、歩きはじめる。
 百貨店の入り口もすっかりクリスマス色で、もうすっかり冬っすネェ、ええと、メンズ、小物、エレベーターに乗る。
 5階、こんなのです。ショーケースをのぞく。
 へぇ。彼女はひとつひとつ、品物を見る。少年は後ろから、彼女を見る。彼女はいま、きっと彼氏のことを考えながら、品物を選んでいる。プレゼント交換ですか? なんて店員が近寄ってきたら、俺はなんて言おうか、あたりを見回して、店員の姿は見えなくて、少し安心した。
「ご予算は?」
「どうだろう、別に、良さそうなのがあれば」
 それから彼女は、スマートフォンを取り出して、ちらと見てから、またポケットにしまった。



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