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−4−「これにしようかな」
 15分ほどして、彼女が指をさす。
 「あぁ、いいんじゃないですか」
 と、答えたけれど、どんな柄なのか、見はしなかった。
 会計を済ませて、赤いリボンのかかった小さな箱の入った紙袋を提げて、
 「ありがとう、君に頼んで良かったよ」
 「どういたしまして」
 彼女はまた、スマートフォンを見て、
 「お茶でも、してく?」
 「付き合います。サ店、この上の階にありましたよね」
 
 緩やかにジャズが流れている。少年のもとにはホットコーヒーが、少女のもとにはアイスコーヒーが、それぞれ、運ばれてくる。
 コートを脱いだ彼女は、白の丸襟の、品のいいブラウスに、黒のニットのセーター、ツイードのグレーのスカートで、さすがに、普段着はゴスじゃないんですね、言おうとして、やめた。
 「彼さ、すごい気にするんだよ、わたしのこと」
 スマートフォンを手にして、彼女は言った。
 「愛されてるじゃないですか」
 少年はコーヒーをすすりながら、彼女の目を見た。
 「すごい、束縛しぃなんだよ」
 「へぇ」
 「夜中とかでもさ、ちょっとメール返信できなかったりすると、すぐ電話かかってくるの」
 「大変ですね」
 「こないだなんてさ、ちょっとスマホ置いてたら、20回も着信があってさ」
 「まじですか」
 別れちゃえばいいんじゃないですか? って言ったら、さすがに大人げないか。
 「疲れるんだよね」
 「まぁ、愛されてると思って」
 「うん」
 彼氏とはどこで会ったんですか? おいくつですか? 付き合ってどれくらいですか? どっちから告ったんですか? 口説き文句は? 週に何回ぐらい会うんですか? デートとかどこでするんですか? えっち、しました?
 あまりにもくだらないことばかり聞きたい自分が嫌で、すません、呟いて、また煙草に火をつけた。
 先輩のアイスコーヒーはもう空になっていた。
 そう言えば、先輩は今日一度も、お手洗いに行っていない。俺は買い物を終えた後、1度、行った。
 体型の割にふんわり膨らんだ、スカートのシルエットを思い浮かべて、俺は自分の想像力の逞しさに、かなり呆れた。
 
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