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きゅう、きゅうう、集中していれば忘れられる、じゃない、集中していなければあふれてしまいそう。足ぶみをするみたいに、重心を移動させる。足先を蝕む冷気のしびれより、おなかのしたの痛みのほうが、優勢か。
おしっこ、我慢できないかも。
どうする。このまま家に入れなかったら。どこか、物陰でさせてもらおうか。たぶんレナなら怒らないし、むしろ、早く行けって言うだろう。
でも、外でおしっこなんて。それも風邪で苦しんでいる友達を放って。
きゅう、きゅううう、きゅう、けれど冷たさが、直接膀胱を押すみたい。まずい、レナの前でおもらしなんてしたら、じぶんのせいだって、よけい、苦しめる。わたし何のためについてきたのか分からなくなっちゃう。
おしっこ、させてもらおう。あっちの植え込みなら、きっと道路からは見えない。ごめん、レナ、わたしちょっと、お花畑
、言おうとして、ドアにもたれかかってうつむいたまま、肩を上下させる親友の姿がとびこんで、
「レナ!」
ひゅうひゅう、不規則な息づかいがもらす白い粒子が、彼女の悲鳴のように見えて。ばか、この寒さの中ずっと立ってたんだ、どうしてわたし気付けなかった。ずっと苦しんでいたのは彼女だ。一刻も早く、レナを、あたたかい所へ。
「レナ、わたし、入れるところ探してくる、少しだけ待ってて」
言うが早いか、ちなつは鞄を玄関に放りだし、それからコートを脱いで、無理やり親友にかぶせる。
「ちなつ、ちょっと!」
その声を聞き終わる前に、少女はみぞれのそそぐ路地に飛び出した。ラベンダー色の襟がまたたく間に、濃く変色する。
どこか、入れるところはないか。
小走りで家のまわりをまわる。
静かな住宅街。寄り添うように並ぶ家々。
あ!
二階のベランダ。レナの部屋。見上げると、手すり越しにわずか、窓が開いているのが分かる。
そうだ、あそこから。
あたりを見渡す。ふいによみがえる、幼いころの記憶。
レナとふたり、お隣の壁をよじ登って、手すりにしがみついて、あのベランダまで上がった。
目の前に立つ、あの頃、レナに肩車をしてもらってよじ登った壁。今の自分なら、たぶん、いける。
「とりゃッ!」
小さなかけ声をかけ、飛び上がる。顔よりも少し高い、お隣の壁。ざらざらした痛みを手のひらが捕まえる。よし。
制服の、膝上丈のスカートでは決してあげられないであろう角度に、太ももを引き上げる。
たぶん、ぱんつはまる見えだ。それがどうした。つり目、と言われる切れ上がった目じりをさらにつりあげて、少女は壁にしがみつく。
わずかな凹凸に足をかける。こんなことなら、腕立てふせでもしておくんだった。体力には決して自信があるほうではなかったけれど、親友を思う気持ちなら、だれにも負けない。
腕を伸ばして、脚をあげて、壁をよじ登る。すらりと伸びた足が壁の上を踏みしめ、
「どうよ」
、口角を持ちあげた。
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