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もう少し、あのひさしに足をかけて、立ち上がって、そうすれば手すりを越えられる、ベランダに届く。いやらしい冷たい汗が額をつたう。けれど、制服のしたでは、べっとり、ねばるような熱が絡む。
気力の勝負だ。逆上がりの要領、脚を跳ね上げ、ひさしを蹴飛ばす。べこん、トタンか何かの音がする。すごく久しぶりに、脚が接地する。よし、体を半分ひねって体勢を立て直すと、
うりゃあ!
乙女にあるまじき声をあげ、からだは宙に浮き、それから、転がるようにベランダに落ちる。
やったよ、レナ!
からら、窓が開く。ごめんね、靴下びっしょり。両手の感覚はまだ戻らない。それでも両脚をすり合わせるみたいに、ベランダで靴を脱いで、室内に飛び込む。レナの部屋、レナの匂い。冷気から抜け出した安堵感、けれど、温もりはまだ戻ってこない。
待ってて、レナ。しんと沈黙した階段に足音が響く。見えた、玄関。靴下のままかまちを下りる。ロックを外す。確かに鍵を掴んでいるはずだけど、かじかむ指先の感覚は希薄だ。
がちゃり、レナ、開いたよ!
扉を引く。逆光の中に、柔らかそうな襟足の少女のシルエットが浮かぶ。
「ありがとう、ちなつなら絶対来てくれるって、思ったから」
レナがわたしを信じてくれた。
「あたりまえでしょ」
笑う。
じわぁ。おまたがあったかくなるのが分かる。だめ、もう少し。不自然におしりを突き出すような姿勢。寒くて、かじかんじゃって。
レナ、上がって、わたしもすぐ行くから。
うん。
ちゃんと着替えて、すぐに寝るんだよ。
うん。
ほら、わたしびしょびしょだから、少し拭いてから行くから。早く行って、ね。
うん。
早く、ほら。
レナは、わたしの横を通って、靴を脱いで、奥へと進む。
わたしは、それを確認して、玄関を出る。そうだ、わたしの鞄おきっぱだっけ。
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