−8−
ぱしゃ。
頬が再び、外の冷気を感じる。
あれ、鞄は? レナ、持ってってくれたのかな。
さ、これでお手洗いだ。
靴下びしょびしょだけど、ごめん、勘弁して。
からだの向きを変える。
しゅ、しゅうう、
寒さのせいにしたい。筋肉は強張りは、我慢してるからじゃない。おしっこを出そうと収縮する腹筋だ。
もう少し、もう少しだから!
上半身は家のほうを向いて、前に進もうとした。けれど、両方の膝どうし重ねたような姿勢のまま、一歩を踏み出そうとして、その一瞬の出来事、熱がはじけた。
しゅう、ぱちゃ、しゅわわわわわわ、
おまた、おしり、太もも、ふくらはぎ、そして足のうら、ため息が出るくらいいとおしい温かさが、滑っていって。
しょわわわわ、しゅ、ぱちゃぱちゃ、ぴちゃ、ん、
白い湯気が溶けていく。
「やっ、ちゃっ、たぁ」
親友の家の玄関でおもらし。実は、初めてではないけれど、まさか、またするなんて。あれは小学校だったっけ。やっぱりレナの人助けに付き合って、気づいたら限界で。
ぽぅ、変な気持ちになって、頬が熱い。とりあえず両手で顔をおおって、髪の毛からしたたるしずくをぬぐった。
制服はもうびっしょりだ。ラベンダーの靴下、スカート、それにぱんつ。濡れていないところはもうないくらい。さっきの温もりが冗談みたいに、足のうらから冷たさが押し寄せてくる。
ベランダに置きっぱなしの靴は回収しなければならない。さすがにでも、この靴下で室内にあがるわけにはいかない。足元を浸すのは、シャーベット交じりの薄いレモン色。靴、レナに持ってきてもらおうか。どう頼めばいいだろう。
なんて、考えていたら、
「ちなつ、これ」
靴とタオルを持って、ピンクのパジャマに着替えたレナが、階段を降りてきた。
わたしはちょっと足元の水たまりを気にして、
「あ、ありがと」
玄関に滑り込むと、後ろ手で扉を閉めた。
あったかい。
タオルを頬にあてて、それから髪、首すじ。脚は、どうしよう。
「ちなつ、シャワー、浴びてってよ」
「え」
「あと、服びっしょりじゃない。わたしので良かったら、着替えて」
これ、甘えちゃっていいのかな。
「上がって」
きっと、熱でふらふらなはずなのに、気を使ってくれる親友に心底ありがとうを言いながら、ちなつはタオルで足のうらをぬぐった。
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