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 蓄積するとともに、排出するための臓器。そして臓器は、少女の意思を完全に無視して、排出のための収縮を強行する。

しゅ、しゅわわ、しゅわわわわわわ、

 筋肉は、意思のとおり出口を押さえようとしていた。けれど、もう一つの筋肉の力がそれを上回る。
 我慢しているのに、とまらない。
 おまた、おしり、ももの裏、かかと、熱と音がひろがっていく。
 だめ、おもらししちゃ、だめ。そんな最後の抵抗も飲み込んで、滑り落ちて。
 てのひらに訪れる、熱い、熱い感触。プールのあと、熱いシャワーを首のうしろに浴びたときみたいな、ぞくぞく。はぁんっ、公共のプールではきっと、出すことのない湿った、ため息をもう、抑えることはできなかった。

ぴちゃぴちゃぴちゃ、しょわ、しゅわわわわわわ、

 眉間に寄ったしわのせい? 目がひりひりして、開けていられない。せめて声だけこらえようと、上下の奥歯を合わせようとする。けれど、おなかの底、胸の奥からあふれてくる、正反対のちから。

しゅうう、しゅう、しょわわわわぁ、

 声を殺すため。じゃない。おなかに入れられたちから。なぜ。おしっこするため。
 左手をはなすことが出来ない。最後の抵抗。違う。おしっこの熱さを感じるため。
 どうして電話を中断しなかった。おばに気を使った? ううん、

 おもらし、するため。

 震える目線が、下半身を直視する。
 グレーのスェット、まずおまたの色が黒く変わって、ひろがって、それから、ももの内側、ゆるやかに下向きの弧を描きながら、黒い筋が、3つ、4つ、浮かび上がっていく。

ぴちゃ、ぱ、たちたたたたたたたた、

 きっとおしりから落ちていく幾筋もの水流が、フローロングの床を打ち、あるいは、熱い恥ずかしいみずたまりに落ち、高い音をたてる。

ぴちょ、ちょ、っつ、つつ、

 最後のひとしずくが流れきるのに合わせ、少女の肩がゆっくり、上下しながら落ちていく。けれど、その震えにも似た動作が収まるまでには、まだ少し時間が必要だった。
 昨夜。トイレに行かずにベッドへともぐった。明日は、父も母もいない。
 今朝から、一度もトイレに行っていない。テレビを見たり、スマートフォンをいじったり、時間が過ぎるのを待った。
 そうやって、十数時間にわたり、少女の体内に留まらせられた液体が、春のゆるい陽ざしのなかで、少女のしたに、静かに、静かにひろがっている。

「おもらし、やめられないよ」

 眉間にまだしわを寄せたまま、少女の口から、押え切れなかった言葉が、こぼれた。



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