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あ、運動会の時おなじリレーチームだった子。あっちの子は、登校のときいつも一緒になる子。プールのなか。水泳キャップをかぶっているからなんとなく雰囲気が違うけれど、思ったよりも知ってる顔がいっぱいある。みんなプール来てるんだな。わたしは夏休みの解放プール、一回も行った事なかったな。
誘ってくれる友達がいなかったわけではないし、弟が大きな水泳バッグを抱えて、朝早くから出掛ける後ろ姿もずいぶん見て来た。でもなんだか、好き好んでプールに行こうという気にはならなくて。水のなか、きらきら笑っている下級生たちを見ながら、なんとなく、少しうらやましい気持ちになる。
楽しそうだなぁ。
知っている顔を探しながら、時間が過ぎるのを待つ。もうすぐ11時半。あと30分か。だいじょうぶそう。
少女は、ボディバックに手を伸ばした。すっかり汗をかいたペットボトルを取り出し、口に運ぶ。
なるべく水分は取らないように、そう思っていたけれど、やっぱり暑さには勝てない。
こく、こく、こく。のどを流れていく感触。同時に、からからだったからだが潤っていくような、心地よさ。30分だもん、あっという間だよ。一気に半分以上、飲んだ。
それから、バケツに水を汲んで、3回目かな、足元に流す。足元だけじゃなくて、あっち、こっち、少し涼しくなりますように、水を流す。わたし、働いてるでしょ。
11時45分、あと15分、たった15分、でも、まだ15分。
さっき飲んだ水が、からだのなかをまわって、おなかのしたに集まってくる。
やっぱり、おしっこしたくなっちゃった。
この感じ、ちょっとやばいかも。
みくは、トイレが近い。おしっこしたい、と彼女が感じる時。それは、もう限界、に限りなく近い。
どうしよ。
きゅっと、おなかのしたのもうすこししたにちからを集める。
ぱたぱた、足踏み。この感じ、今朝と一緒。ってことは、やばいじゃん。
小学校のころ、体育の後とか、友達に誘われてお水をいっぱい飲んだりして、次の授業、あと5分、って時にはもう、机の下でこっそりおまたを押さえていないと我慢できないくらいになっていて、先生、チャイム通りに終わってください、祈るような気持ちで。
チャイムと同時にトイレにダッシュ。よし、一番乗り、って個室に入って、下着を下ろすのと同時に、もぅだめ! って。パンツのまん中にぽっかり、500円玉くらいの、まんまる。だいじょうぶ、スカートじゃないから、平気、へいき、って。
そんなことが何回もあった。中学に入ってからは学校でお水をいっぱい飲むようなことはなくて、いまのところ、学校では500円玉にはお目にかかっていない。
けど、家にいるときは、ときどき。だってテレビ見たかったんだもん。だってマンガ面白かったんだもん。だって、たかあきが。
からんからん、なんだろ。先生がベルを鳴らす。
12時、10分前。プールのみんなが、いっせいに動き出す。あ、いっせいに、じゃないか、まだ遊んでるの、特に男子、けっこういる。たかあきも、いる。
動き出した子たちはもうぞろぞろ、プールサイドに上がって、寝転がったり、更衣室からタオルを取ってきてる子もいる。先生が更衣室前の、シャワーを操作して、しゃああ、あれ、つめたいだよね。ぞく、背中に、冷たさがよみがえる。
反射みたいに、ふるえが走って、くぅ、みんな、こっち見てないよね? こっそり、おまたに手を伸ばす。足踏み、ぱたぱたぱた。
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