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 手前が洗面台。隣にお手洗い。カーテンで仕切られたその隣が、バスタブ。洗面台とお手洗いのあいだに、脱衣かごがある。わたしはスカートだけ脱いで置くと、バスタブをまたいだ。カーテン、バスタブの内側に垂らすんですよね。ユニットバス、使うの初めてなので。
 しばらくして温かくなるシャワーのお湯を、ブラウスにかからないよう、太腿あたりからそっと、流す。
 あったかい。ずぅっと下半身にへばりついていた気持ち悪さが、やっと流れた気がした。
 上はきちんとセーラー服なのに、下は一糸まとわぬ姿。肌を流れていくぬくもりと、ブラウスの衣擦れ、んん、変な感じ。
 かちゃん、扉の開く音。びくっ。
「バスタオルと、あと、わたしのですけど、着替え、置いておきますね」
 カーテン越しに声。ありがとうございます。

「こちら、乾くまで、どうぞ」
 着替えを済ませ廊下に出ると、リビングから声がした。廊下の右手、少し奥まったところに洗濯機があって、がらがら、音を立てている。
「お邪魔します」
 8畳くらいか。柔らかい蛍光灯のひかり。ふわふわの白いラグ。中央のローテーブルに、アップルティかな、甘い匂いの紅茶が、白いカップに揺れていた。
 彼女はピンクのTシャツと、しましまのスエットに着替えていて、スーツ姿よりももっと、幼く見えた。
「狭いですけど、どうぞ、ゆっくり」
 彼女がテーブルの奥に座る。わたしも座る。借りた下着はちょっときつくて、座るとき、少し意識してしまった。
 左手の奥にデスク。右手がベッド。みな暖色系。嫌いじゃないです、この部屋。
「あの、ほんとうにすいませんでした」
 私の向かいで、彼女がちっちゃくなって、言う。
「びっくりしますよね、何やってるんだって」
はい、びっくりしました。
「わたし、あの高校だったんです。家が近いから、ときどきこっそり遊びに行くんです。なんだか、楽しかった高校時代に戻れる気がして」
今は楽しくない、と。
「でも、ほら、堂々とは入れないから。あの校舎は、見回りとかも来ないから。忍び込むには最適で」
立派な不法侵入ですものね。
「まさか、あの時間まで学生さんがいるとは思わなくて。あわててトイレに隠れちゃって、そしたら」
おしっこ我慢したわたしが駆けこんできた。
「本当にごめんなさい!」
 彼女は黒髪を揺らして、またあたまを下げる。細い肩がきゅう、より小さくなったように見えた。
「いや、わたしもその、ちょっと驚いてしまって。恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
おもらし、見られてしまいました。
「こちらのほうこそ、よくしていただいてありがとうございます」
「いいえ! これぐらいしかできなくて」
 それからしばらく長い沈黙が続いた。洗濯機ががらがら、音を立てている。
「あの、紅茶、よければ、どうぞ。ぬるくなっちゃいましたね」
「あぁ、ありがとうございます」
 少女は、ゆっくりと指を伸ばした。サイドの髪を耳にはさむと、一口、くちをつける。
「あ、おいしい」
 思わず、揺れる琥珀色の水面に目が落ちる。
「よかったぁ」



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