−7−
ゆさゆさ、ベッドの小刻みな振動で、僕は目を覚ました。
ナイトランプの控え目なオレンジ色のひかりのなか、先輩の白い背中が浮かんでいた。
先輩はベッドの上に座っている。片腕で抱きしめられる細い腰、そこからなだらかに膨らむ丸いおしり。透きとおる肌の上に影をつくる背骨のひとつひとつが、ほんとうにきれいだと思う。
ゆさゆさ、先輩が動いている。ベッドが揺れる。
何気なく伸ばした右手が、冷たい感触を見つけた。
ベッドが、濡れている。それも、比較的広い範囲。
僕は首を上げる。
ぱっ、先輩が振り向く。サイドの髪の毛が乱れた様に顔にかかった、ちょっと見ない表情。
口が、少し開く。
「どうしよう、しちゃった」
それから小さく紡がれた、先輩のハスキーな声。
眉間にきゅうっとしわが寄っていて、これ、先輩が本当に困った時にする顔。
僕ががばっ、上半身を起こす。さっき、おもらしをしたとき以上に、心臓が加速するのが分かった。
半分めくられたかけ布団。先輩はたぶん濡れたタオルを持って、事態の収拾を図っていた。
ぼんやり、明かりが照らす白いシーツの、右斜めまん中あたり、ぽっかり、グレーの染みがひろがっている。
「どうしよう、やっぱり、ホテルの人に言わなきゃだめかな」
先輩の眉間のしわが深くなる。
「とりあえず、ドライヤーで乾かす、とか」
「えええ? いいの? それで?」
スマートフォンで、ホテルのベッドを濡らした時の対処法を調べようかとも思ったけれど、あまり意味がなさそうなので、やめた。
とにかく僕は、ドライヤーを取ってくることにした。素足のまま踏む絨毯はちくちくする。
ベッドの上で、お姉さん座りのままでいる先輩。肩がとても細くて可愛くて、乾かす前にもう一度抱きしめてしまおうか、そんなことを思った。
があああ、ドライヤーの音。しばらくすると染みが薄くなる。先輩はまだぺたりとお姉さん座りのまま、成り行きを見ている。
「ベッドまで濡らすことなんて、あんまりないのにな」
え。
ドライヤーの音に消えてしまいそうな、小さな声。
「先輩、現役のおねしょっ娘、なんですか?」
「普段は、シーツまでなんて、濡らさないよ。ちょっと、パジャマが染みちゃうくらい」
唇を結んだまま、もにょもにょ、彼女は言った。
「それだって、月に1度くらいだもん」
また、もにょもにょ。
先輩が、現役のおねしょっ娘。自分で言っておきながら、ツーバスみたいな早さで心臓が拍動して、ドライヤーを持つ手が震えた。
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