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うつむき加減で答えてから、少し間を置いて、もっと小さな声で、彼女はつづけた。
「でも、わたし、病気なんです」
病気?
「その、お手洗いが、すごく近いんです」
そっか。
「その、お手洗いが、我慢できないんです」
学校、大変じゃない?
「はい。休み時間のたび、お手洗い行ってるんです。でも、その、我慢できないこともあって」
そっか。
「この話したの、お母さんの他には、先生がはじめてです」
話してくれてありがとう。
「あ、いや、その」
今までも、我慢してた?
「え? あ、はい。てぃうか、我慢できなくて」
ん。
「おむつしてるんです、いつも。気づきませんでしたか?」
ぜんぜん。
「そっか、良かった」
いえいえ。
「あの」
なんですか?
「おかしいですよね、こんなこと話して」
ぜんぜん。夢泉さんのことを知ることがきて、良かったです。
「本当ですか? 迷惑じゃないですか?」
ぜんぜん。わたしでよかったら、いつでも話を聞かせて下さい。
「はい、ありがとうございます」
青年は顔をあげた。蛍光灯の白いひかりが、眼球の上に降る。彼が、考え事をするときの癖。空調の、ルーパーだろうか、きぃ、高くて短い音がする。
青年は、笑顔を作った。
「たくさん我慢しなきゃいけないのは、大変ですよね」
はい。辛いです。
「とりあえず、行きたいときには行こう、別に、何も言わなくていいし」
はい。
「授業、続ける? 今日はここでやめにしようか?」
え、大丈夫です。続けて下さい。
「分かりました。じゃあ、次のページ」
告白って、こんな感じなのかな。どきどきが止まらなくて、声、出てないんじゃないかって。でも、言いたかった。彼に知ってほしかった。言わなかったら、みはるのほうが破裂しちゃいそうで。どきどきして。いま言わなきゃ、って。彼、はじめて見た時と同じ笑顔で、話を聞いてくれて、みはる、こころの中がからっぽになったみたいで、言っちゃった、これからどうすればいいんだろう、そんな感じでした。その日は、眠れなかったなー、ずっと、どきどきしてて。
次に二人が会った時、45分程して、彼女は席を立った。
「その、おトイレ」。
消え入りそうな声。青年は笑顔で、
「ごゆっくり」
、続けた。
5分程して彼女が戻る。青年は少し首を傾けて、目を細めて。その次だったか、何かのきっかけで、服の話になって。
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