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 ここに、少なくともあと3時間、立っているわけにはいかない。そう思った。
 どうする。
 足が疲れた、なんて言うと、何を若いものが、とか思われそうだけれど、しかしどこかに、座りたい。
 少女はひとまず、マンションのとなりの、公園を目指した。
 叩きつけるような、昼の日差しがまぶしい。マンションって、こんなに白かったっけ。
 すううっ、歩きだすと、右の太ももの裏あたり、しずくの流れるような、くすぐったさ。ぞく、足元を見る。紺の靴下に幾すじか、濃く色を変えた染みがある。また、心臓が早くなる。どうか、気づかれませんように。
 駐車場を抜け、少し背の高い植木が途切れるところ、公園の入り口。
 にぎやかな声、幼稚園帰りの子供や、お母さん方、10人くらい、滑り台のまわりを駆けまわったり、ブランコに乗ったり。
 誰も、わたしの事を気にする人はいないみたい、大丈夫、堂々としていれば。スカートの中まで、気づかれはしない。
 子供たちのなかを通り過ぎ、その向こう側は、広場になっている。木のベンチが、いくつか、置かれている。
 少女は、さんさんと日のそそぐベンチの、通りから一番遠いひとつに、腰を下ろす。
 真後ろは、まばらな植木。座面ぎりぎりまで腰をおろしてから、一気に、スカートの両がわ少し後ろを掴んで、たくしあげた。間髪いれず腰を落とし、スカートから手を離す。決して良くはない、ざらりとした木の肌ざわりが、太もものうらに伝わる。これで、おしりの下は、だいじょうぶ、のはず。
 自分の両側、ベンチの上、スカートのすそが不自然に広がっているけれど、別に、誰も気にしないよね?
 おしりの下。水たまりのなかにしゃがみ込んだみたいに、そこだけ、冷たい。少し、腰を前後に動かす。下着が気味悪く、まとわりつく。
 背後で、子供たちの声が途切れることなく続く。ときどき、広場の方へ走ってくる子たちがいる。どこの幼稚園だっけ、紺色の制服。
 あの子たちは、まだおもらし、するだろうか。おもらししちゃったら、すぐに着替えるんだろうか。
 普段は、考えもしなかった、こんなこと。
 真正面、広場のまん中の一番奥に時計があって、もうすぐ1時35分。少なくとも、まだ後、2時間以上。
 おなか、空いたな。
 お金は持ってる。コンビニ、歩いて10分。行く?
 コンビニって、衣類も売ってるんだっけ。ぱんつ、買えるかな。
 じょうだん、ぱんつなんて、買ったことない。
 15分歩けば、駅。駅ビルもあるし、もちろんぱんつも買える。時間だって、つぶせる。駅ビルのトイレで、着替えられるかな。
 じょうだん、おもらしぱんつのまま、お店のなかになんて、入れるわけないじゃん。
 鞄を、膝の上に置く。
 明日の、勉強しなきゃ。
 社会科のノート、ぱらぱらめくったけれど、すぐに、やめた。
 生ぬるい布地が肌に張り付いて、すごく、かゆい。もぞもぞ、腰を動かす。ほんとは、思いっきり引っ張りたい。もぞもぞ。足の付け根のゴムの部分が、ちくちく、すごく、かゆい。
 時刻は、2時を回った。子供たちはまだ遊んでいる。ぎらぎら、太陽のひかり。暑い。ほっぺたも熱い。日焼けしてるだろうな。お風呂入ったらしみるかな。お風呂、入りたい。
 同じ姿勢で座っているのにも飽きて、一度、伸びをする。肩がこるって、こんな感じかな。ぽき、どこかで音がした。
 体温であったまったのかな、下着はもう、冷たいとは思わなかった。けれどそのかわり、ものすごく、かゆい。
 もぞもぞ、また腰を動かして、正面に誰もいないのを確認して、鞄をわきに置く。それから、少しだけスカートのすそを持ちあげて、ぱたぱた、風を入れてみる。
 ふわっ、太もものあたりに、涼しさ。わたし、何やってるんだろう。
 ときどき、風が吹いて、止まる。暑い。



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