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時間が止まったみたいに、からだが凍りつく。でも、あたまのなかだけがぐるぐるまわって、ひとつの言葉をはじき出す。
おねしょ。
うそ。
ほんとに? とっさにゆびさき、ぺた、くんくん。
うそ、ほんとに、おねしょ。
おねしょなんて、もう何年もしてないのに。どうしちゃったんだろ。
上半身を起こしたままの布団の上、まだ、からだが凍っている。どっ、どっ、どっ、どっ、心臓が、凍ったからだのなかでもがいている。
どうしよう!
どうしよう!
どうしよう!
「みさき? 起きてるの? 今日、学校に行く日でしょ?」
扉の向こう、お母さんの声。もぉ、心臓破裂する。ちょっと、今は入ってこないで、ほんとに、お願い!
「うん、分かってるッ! 今行くから!」
なんとか、それだけ絞り出す。
どうしよう、
どうしよう、
どうしよう。
びっしょりと濡れたパジャマ、座り込むおしりのあたりを中心に、ぺったり、布団にへばりつくみたい。もう。重くて、冷たい。カーテン越しにやってくる陽ざしが、ぎらぎら、きっと、今日も暑い。
とにかく着替えて。シャワー浴びて。
シャワーと一緒にパジャマ流せば、ばれない?
布団はどうする。そうだ、ええと、ええと、寝る前に水飲もうと思って持ってって、こぼしちゃったって、無理あるかな、でも、おねしょなんて、言えない。言えないよ。
「みさき、福田君、迎えに来たわよ」
え。
がぁん。って、ほんとに聞こえた。
がぁん、っていって、目の前が、ほんとに、まっくらになった。
時計を見る。気づかなかった、もうこんな時間。
「ちょっと待っててもらって! それから、おかあさん、ちょっと!」
ばね仕掛けのちいさなおもちゃみたいに、ぴょこん、布団から跳び起きると、部屋のとびらをちょっとだけ開けて、出来うる限り小さな声で、でも、用件が伝わるように、声を出すことにこんなに神経を使うなんて、はじめて。
「みさき、どうしたの」
少しして、お母さんが来る。わずかに開いた扉越し。
「おねしょしちゃった」
わたしは、告白した。
福田さんを待たせるわけにはいかない。
時間は限られている。一刻も早く事態を収拾するには、もう、これしかない。
お母さんは、え、と、変な声を出す。わたしはもう泣きそうで、いや、実際泣きながら、くちびるの前に人差し指を立てる。
「ごめんなさい、シャワー浴びて、着替えるから。福田さんに、もう少し時間かかるって言って。あと、お布団、お願いします!」
今度は両手を、顔の前で合わせる。神様仏様お母様! お願いします!
「朝ご飯は?」
「食べなくていい!」
「だめよ、暑くなるんだから」
「あとでいいから! とにかく福田さんに伝えて!」
お母さんは、む、くちびるをとがらせて、扉を閉めた。
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