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わたしは、とにかく着替え一式を集めて、バスルームのある一階を目指す。
階段を下りて中ほど、ちょっと待って。階段を下りると玄関が見える。まさか福団さん、玄関で待ってるなんてことないよね? 玄関を通らないと、バスルームにはたどり着けない。パジャマ姿を見られるだけでも恥ずかしいのに、ぐっしょり濃く色を変えたところ、見られたら。
おそるおそる、階段を下りて。ちょっと、玄関の方を伺って。どっ、どっ、どっ、どっ、また心臓が、もがく。大丈夫、人影はない。
少女は滑るように、玄関の前を駆け抜け、バスルームへと消える。それからパジャマを脱ぎすて、浴室へ放り込むと、シャワーでじゃーじゃー流して、それから、構うものか、冷たいまま、からだも流した。
ばちん、冷たさが、背すじで跳ねる。いっそ、夢のなかの海もこれくらい冷たければ、よかったのに。
急いで着替えると、リビングへ回る。お父さん。なんでまだいるの。これ、持ってけってよって、パンの袋と、水筒を渡される。いいよ、って言ったけど、やっぱり、ありがと、受け取った。時計を見る。約束の時間、30分は過ぎている。福田さん、もう先に行っちゃったかな。あすのちゃん、待たせちゃった。ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて。
いってきまぁす! 玄関を飛び出すと。
福田さんがいた。
軒下で、麦わら帽子をかぶって。
もう一度、心臓が止まりそうなほど、びっくりした。
「すいません、お待たせしました!」
120度くらい、状態を曲げる。いや、どげざしてもいいくらい。
「大丈夫?」
福田さん、いつもと同じ、優しい声。迎えに来てもらって、ずっと待たせちゃって、なのに。どうして、こんなに優しいんだろう。
お母さん、なんて言ったんだろうか。まさか、おねしょなんて、言ってないよね?
「行こうか、中川さん、心配していると思う」
「はい!」
玄関を出る。柱のかげ。福田さんが、手を握ってくれた。
「走ろっか、平気?」
「はい!」
すぐに手を離して、彼は言う。まだ走ってもいないのに、心臓が、すごい速度で、加速した。
空はもう。真っ暗だ。いつ、降りだしてもおかしくない感じ。プールの方、まだ賑やかな声がする。早くしなきゃ、雨が降る前に。少女は、ざっ、ざっ、ほうきを振った。
おなかの下、ずしん、痺れるみたいに、痛い。もうちょっと、もうちょっとだけ。ぎゅっ、ちからを集める。
前かがみになって、ちりとりに草を入れると、きゅううっ、あふれそうになる。ほうきを握る片手、そっと、柄を離れ、服の上、あてがわれる。でも、片ほうじゃうまく扱えなくて、やっぱり、もどる。もう少しで終わるから、そしたらおトイレ、行けるから。
あすの、は、けっこうおしっこが我慢できるほうだと、自分では思う。授業中、行きたいなー、って思っても、次の時間くらいは我慢できる。だから、平気、へいき。
雑草の山、ひとつ、ふたつ。ちりとりに放りこむ。脚を動かすたび、ぴっ、ぴぴっ、いっぱいになったおなかの下が、危険信号を発する。ぎゅうっ、ちからを集めて、信号を遮断する。あとちょっと、あと。
ぽつ、ぽつ。
あっ、降ってきた。早くしなきゃ。平気、へいきだから、これだけ、終わらせて。
どーん!
きゃああっ! プールの方、悲鳴が聞こえた。雷だ。それから、ざあぁぁぁっ。
バケツをひっくり返したみたいに、大雨。
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