ー3ー
「分かった。いっしょに行こう」
「ああああ、ありがとうございます!」
 また深々、頭を下げた。
「そうしたら、次の休みの日、魔晶石が最初に青く光る時に、東の森の入り口で」
「はい!」
「では、わたしも失礼するよ、お食事の邪魔をしたね」
くるり、向きを変える。身のこなし、本当、とってもきれいです、熱い視線を送る友人の気持ちが、少し、分かったような気がした。
 でも。
「ありぃ! 奇跡だよッ! ルネ様と一緒にいられる! それどころか、森の賢者に会えるかも知れない! こんなこと、学校生活で一度、あるかないかだよ!」
 両手をぐーに握って、少女は顔をきらきらと輝かせている。
「もちろん、ありぃも一緒に来てくれるよね?」
 森に、ちぃが自分から行こうとしている。あんなにひどい目に、それも二度もあって、もう絶対森には近づかない、って言っていた、ちぃが。
「ちぃが、そう言うなら」
 やはりアリエは、にこりと笑った。

「カナリヤが、彼女に接触したそうですよ。イルメナウからです」
 青白いひかりの他は真っ暗な、学校の、どこか一室。
 そして影のように佇む、ふたり。
「そうですか。気づいていますね、おそらく」
「ええ。なにを、考えていらっしゃるのか」
「ちからは、ちからを呼びます。望む、望まずにかかわらず」
「たとえそれが、欲せぬちからだとしても、ね」

「ねぇ、ちぃ、少し、伺ってもいいですか?」
 部屋にさし込む陽は穏やかである。今日は、それほど暑くもない。それでも、ブラウスとスカートを脱ぎ、少女らしい伸びやかな肢体を午後のひかりのなかに浮かべ、まだにやにやとしたままベッドに寝そべる友人に、ちら、と視線をおくりながら、少女は口を開いた。
「ん、さっきのこと?」
「はい、森の賢者、って言ってましたよね?」
「うん」
 ぱたり、寝がえりをうって、少女は身を起こし、ベッドの上に座る。わきの下、湿ったように陰る肌の色、見慣れているはずなのに、アリエは少し、壁の方を向いた。
「なんですか、森の賢者って」
「ありぃ、精霊って知ってる?」
 ベッドの上で少女は腕組みをする。白いコットンのスリップの下の、下腹部の柔らかい動きに合わせて組まれた腕が上下して、やっぱりアリエは、視線をそらす。
「精霊って、絵本に出てくる、あれですか?」
 ちら、横を向いたまま、目線だけ、友人を捉える。
「そう。このモレタ島の、ありとあらゆる自然現象には、すべて精霊が宿っていて、風が吹くのも、草木が伸びるのも、火山が熱いのも、ぜんぶ、精霊のちから、って言う」
「絵本のお話、ですよね?」
 アリエはきょとん、友人の方を向く。友人はベッドの上であぐらをかいている。すらりと組まれた脚が、薄陽のなかで、若々しい少女のにおいを立ち上らせているようで、鼻のおくと胸のなかが、くすぐったいみたいな、気持ち。
「精霊は本当にいるって考えている人、けっこういるんだよね」
 レツィタティファはにやりと首を傾け、アリエの顔を見た。
「それでね、その精霊と意思を通わすことができる、精霊使い、って言う人たちがいるって」
「あ、それも絵本で見たことがあります。日照りが何日も続いて、困った村人が精霊使いさまにお願いしたら、雨が降ったとか」
「そうそう、それだよ」
 友人はまた、にやりと笑う。
「絵本のお話じゃ、ないんですか?」
「うん、本当に精霊や精霊使いがいるのか、誰もあったことがないから分からない。でもね」
「でも?」



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