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背中はもう、熱いくらいで、たぶん、濡れたところは乾いているだろう。先生のとなりで寝るなんて、ちぃが見たら、さぞ羨ましがるだろう。ちょっと、いじわるな気持ちになる自分が、おかしかった。
「それと」
「はい?」
「下着は、穿いておいたほうがいいんじゃないかな」
「!!」
それから、眠りに落ちるまで、少し時間がかかった。
夜が明ける。
アリエが節ぶしの痛みで目を覚ますと、すでにレツィタティファは荷を整えていた。青白い朝もやのなか、たき火はすっかり白い炭になっている。
持参した硬いパンと、少しの水とで朝食とし、まだ脚や腕やあちこちが痛む、でも、きょう一日、どうか、森の賢者に会えますように、少女たちは、まだ冷たい森を、次の目的地へと向かう。
今日は、あまり天気が良くない。ずいぶん森の中を歩いたが、陽のひかりがさすことはなく、空気も冷たいままだ。
どれくらい歩いたのだろう、レツィタティファが興奮した、めずらしい薬草が生えているという美しい緑色の泉、いばらだろうか、棘のある蔓が幾重にもはびこる小さな川の岸辺、嫌な既視感に襲われた、切り立った崖の下、けれど、賢者はいない。
ときおり見える空、雲が重い。雨が降ったら、やだな、友人はつい、そんなことを言った。
今日二度目の食事、硬いパンと、アリエが持ってきた、くまさんグミ。少し、笑顔のこぼれた、その矢先だった。
グゥルルルゥ、
聞き覚えのある咆哮、忘れたくても忘れられない、獣のにおい。
思わずからだがすくむ。あいつだ!
気づけば、一匹ではない。木々の間から、3匹、いや、4匹、どれもこれ見よがしにとむき出しにされた牙の隙から唾液をしたたらせ、すっかり、四方を囲まれている。
先生! アリエはかちかちと震える歯をぐっと噛みしめ、先頭の彼女を見る。
しかし、彼女は剣を抜こうとはしなかった。
先生!?
グァアアアアアッ!
一匹が飛びかかる、ルネはぱっ、身をよじりその突撃をかわす、だが、剣を抜かない。
アリエとレツィタティファは背中合わせになり、その動きを目で追うのがせいいっぱい。ぴったりとくっついた背中に、震えが伝わる、わたしが震えているのか、それとも。
「戦いなさい」
強いられているわけではない、けれど威厳に満ちた、逆らうことのできない、声。
「わたしはッ!」
自分の願いを叶えられるだけの、強さが欲しい。
そうだ。わたしは。
ちぃを守りたい!
きゅいいいいいんっ!
赤い閃光が、森を貫いた。
「源動、発動か」
ルネが、小さく呟く。
「うりゃああッ!」
同時に、少女が跳躍する。赤いひかりの残像を引き、自分の身の丈の3倍、いや、4倍、それも、目にもとまらぬ速度で。
べきいっ! 直後、そのひかりの先の一匹の首が不自然な方向へ曲がり、そのまま、木に叩きつけられる。
「どおりやぁっ!」
背後から跳びかるもう一匹に、振り向きざま、回し蹴り。細い脚が、空を横ぎると、ずがっ! そいつのからだは高々と宙を舞った。
「あたまを狙え!」
「はい!」
地に降りた瞬間、反転し、さらにもう一匹の額をめがけ、拳がはしる。ぐしゃあッ! 鼻先から土にめり込み、もはや、動かない。
もう一匹は? 周囲を睨む。だがその瞬間、下腹部に猛烈な重み。んんッ、だめ! 早く、あと一匹! 内なる限界をすんでのところで耐え、最後の一匹を探す。だめです、まだ、我慢しないとッ!
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