-3-
1年ぶりの、もうひとつのわたしの家。ちょっとほこりくさいけれど、中はこぎれいに掃除されていて、ありがとう、お母さん。
エミリー、ちょおお嬢さんなんだね、ジュリアが部屋の中を見ながら目を丸くして、お父様、○○商事ですものね、ってナオミ。そしたらジュリアが、ナオミのお父さんだって○○の重役でしょ? お嬢さまじゃん! って返して、わ、わたしはそんな、お嬢さまなんかじゃ、っていったところに。うわー、部屋もいっぱいあるし、窓は大きいし、アメリカのお家、思い出すなー! って、目をきらきらさせたアンナが飛び込んできて、よし、それじゃあ、うちの中、案内しようか! ってわたし。居間でしょ? 寝室でしょ? 台所でしょ? こっちがお風呂で、お手洗いはこことここ、地下はパーティルームで、庭に出るのも地下から!
日が暮れ始めたころ、いよいよお楽しみのバーベキュー。わたしも一応、料理はするほうだと思うけど、ジュリアとナオミはすっごく料理上手! ジュリアはとっても手早いし、ナオミはとても丁寧。わたしとアンナは邪魔にならないようにお手伝い、になっちゃった。
火をつけるのに手間取っていたら、ジュリアがこうだよ、って教えてくれて、その間にもナオミが、きれいに盛り付けられたお皿を次々に運んでくれる。アンナはいつの間にか、庭をあちこち探検したのか、見て見て! カブトムシいたよ! なんて持ってきて、きゃああ! ってジュリア。ほんとに虫、嫌いなのね。
お肉、お野菜、ナオミ自慢の手作りソースはとてもおいしくて、ねぇねぇ、レシピ教えてよ! ってわたし。ケアンズにいたころを思い出すなぁ、って、すごく慣れた手つきで串をひっくり返しながらジュリア。お腹いっぱい食べて、飲み物もいっぱい飲んだ。だって今夜は、何も心配しなくていいんだもの。おねしょしちゃったって、ぜんぜん恥ずかしくない。みんな、仲間なんだから。
ご飯のあとはお風呂。みんなで入ろうよ! って言ったら、わたし長湯だから、一緒に入ったらみんなのぼせちゃうよ、ってジュリア。わたしも、一人で入りたいです、ってナオミも言うから、わたしとアンナで入った。
「とっても楽しいです」
湯船に向かい合わせで浸かっていると、アンナはすっかり顔を緩ませて、言った。
「はじめは、びっくりしちゃいました。偶然集まった4人が、4人ともおねしょするなんて、信じられなくて」
「わたしもそうだよ。本当にすごい偶然。だから、こんなにすごい偶然が起こったんだから、ぜったい何か素敵なことができるって、思ったんだ」
「できましたね、素敵なこと」
アンナがにこにこしながら言う。良かった、企画した甲斐があった。
「そろそろ上がる?」
声をかけると、
「もうちょっと入ってます。お風呂で良くあったまると、おねしょしにくくなる気がするんで」
「ほんと!? じゃあ、わたしももう少し入ろうかなぁ」
それから、ナオミがお風呂に入って、最後にジュリアが入って、アンナがお薦めの映画持って来たんですけど、みんなで見ませんか? って話を切り出して、ジュリアがお風呂から出たら見よっか、って言ったんだけど、自分で長湯、って言ってたのは嘘じゃなくて、全然出てこないから、先に見始めることにした。
これが、ホラー映画! アンナ、そぉいう趣味だったの? わたし怖いのだめなんだよ~。ひとりでお手洗い、行けなくなっちゃうじゃない! もう怖くて、ソファの後ろに隠れたいぐらい。目をつぶったり耳をふさいだりしてたのに、これまた意外、ナオミが食付く、食付く! 身を乗り出して見てるの! みんないろんな面があるんだなぁ、って、もぉ! 怖い! これ、見なきゃだめぇ?
そこに、ジュリアが入ってきて、とても怖い場面だったみたい! ぎゃあああああ! ってすごい悲鳴! 部屋を飛び出して、わたし、怖いのだめなんだよ~! って、扉越しに聞こえて。ジュリア、わたしよりもお姉さんっぽいのに、苦手なもの、多いんだなぁって。
そうこうしてるうちに、映画が終わって。わたしはほっとして、ジュリアが終わった? って青い顔をしながら入ってきて、結局ずっと、扉の外にいたみたい。だって一人になるの、怖かったんだよ~! って。
アンナとナオミはすっかり意気投合。この場面はどうだったとか、あの場面の演出は、なんて飲み物片手に真剣談義。
ホラー映画はちょっと予想外だったけど、こぉいうのもお泊り会っぽくて、いいじゃない?
深夜を過ぎて。お話は尽きないけれど、じゃあ続きはお布団で、ってなって。
ベッドもあったけど、せっかくだから4人で寝よう、って。地下のパーティルームにお布団を並べた。地下、お化けとか出ないよね? ってジュリアは心配そう。毎年来てるけど、そぉいうのは見たことないよ! ってわたしは言ったけど、実はちょっと怖くなっちゃってたり。おねしょは仕方ないけど、怖くてお手洗い行けなくて、だったら、さすがにちょっと恥ずかしいかなぁ。
「寝る前に、確認しておくね」
わたしは、みんなを前にして口を開いた。
「お布団は全部、防水シーツが敷いてあるから、そこは安心して。それから、あそこの棚に、予備のお布団とシーツ、それに防水シーツもあるから、もしも濡らしちゃったら、自由に使って」
はい、ジュリアとアンナがうなづいた。ナオミは、ちょっとうつむいて。
「もし濡らしちゃったら、みんな上の洗濯機に入れておいて。明日、まとめて洗濯しようと思うんだけど、いい?」
わたしはいいよ、わたしもです。ジュリアとアンナ。
「あの、」
思い切ったような、ナオミの声。
「なに?」
「ここまでしていただいて悪いんですけれど、わたし、一人で寝てもいいですか?」
|