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「もぉ、へとへとだよぉ」
 心地よいバスの揺れを感じながら、少女は眠い目をこすった。
「ほんと、からだじゅうばきばき!」
 もう一人の少女が、わざとらしく肩をすくめる。
「エミリーもジュリアもお上手でしたよ! 久しぶりとは思えないくらいでした!」
 胸の前で両手を合わせ、瞳を輝かせる三人目の少女。
「いや、ナオミとはレベルが違うよ」
「オリンピックにも出られるんじゃない?」
 にこにこしながら見つめる、エミリーとジュリア。
「いいえ、そんなには!」
 ナオミは大げさに両手を振り、目を見開く。
「今回は、企画の段階からみんなが関わってくれて、ほんと助かったよ! わたしだけだったらこんな素敵なスキー場も、行き帰りの移動手段も、ぜんぜん見つけられなかった!」
 スキーをしましょう、っていうのはナオミの提案。それで、うちの別荘に近いスキー場をいくつも調べてくれた。ここの雪質はこうで、とか、ここは設備がよくて、とか、すごく分かりやすかった!
 ジュリアもバスの時間とか、電車を使ったほうがいいとか、調べてくれて、あっという間にスケジュールの出来上がり! ふたりとも年下だけど、すごく優秀で、お姉さんは嬉しいです。
「だって半年ぶりのお泊りだよ、すごく楽しみでさ」
「わたしもです。また皆さんとお料理をしたりおしゃべりをしたり、とても楽しみで」
 うん。わたしも! 前回の夕飯はお庭でバーベキューだったけど、今回は冬ってことで、やっぱり鍋でしょー! はいこれ、全会一致。
「本当は、温泉にも行きたかったのですが」
 ナオミ、近くにいい温泉がいっぱいあります! って推してくれたんだけど。温泉入ったらそのまま寝たいよねー、って。すごく迷ったけど、スキーに全振りすることにした。
「やばい、寝そう。楽しい話して」
 ジュリアが目をぱちぱち。
「っていうか、アンナ、爆睡してるじゃん! 大丈夫かな」
 少女たちが座るのは、白い雪道の穏やかなひかりがさす、バスの一番後ろの席。ことんと窓にもたれ、4人目の少女はくぅくぅ、小さな寝息を立てている。
「いちばんはしゃいでいましたものね」
ナオミが微笑む。
「いや、そうだけどさ。起こした方がいいよね?」
「うん。だって、着けてないでしょ?」
 わたしとジュリア。
「何のお話ですか?」
「その、おむつ」
 あたりをうかがいながら、耳元でささやく。はっ、とした表情のナオミ。
「そうですね。万が一がありますものね」
 やっぱり声を低くして、ささやく。
「ふたりとも、経験あり?」
 わたしもそうっと聞いてみる。
「ある」
 と、うなずくジュリア。
「わたしも、あります」
 ナオミ。
「ショック大きいよね、居眠りおねしょ」



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