−4−
楽しい時間って、どうしてこんなにあっという間なんだろう。
駅前でバスを降りて、夕飯の買い出し。スキー板、どこにおいて置く? いっぱいのリュックサック、お店の前に置いちゃおうか。わたし、見張りしてるよ。
それからタクシーで、別荘へ。まずはシャワーを浴びて汗を流したら、お待ちかね、鍋パーティ! 和風? 洋風? え、ハリッサ使うの? バジルペーストは? いいえ、あごだし一択です。火鍋のハーフ&ハーフ! まだ麺は入れないでください、出汁が濁ります。めっちゃ辛! 平気? 全然平気ですよ? しめは雑炊だよね! 卵入れて! 水飲みすぎたかな、お腹たぷたぷなんですけどー。ワイン、もう一本開けますか? それ未成年だめ!
みんなで洗い物と後片付けを終えたら。ピロートーク!
「あ、そうだ。前回はわたし、おむつしなくていいよって言っちゃったんだけど、今回は、後始末の事もあるし、自己判断で。一応、防水シーツは全部、用意してあるから」
「おむつしてても漏れちゃうときは漏れちゃうからね」
「ジュリアは、何を使っているんですか?」
「ああ、おむつ? これだよ」
「なるほど。穿くタイプですが、大きめですね。普通に薬局で買えますか?」
「うん、売ってるよ」
「あ、ジュリアとわたしおそろいだ! でも最近、脚回りがきつくなった気がしてさ」
「分かる。でもこれより上のサイズだともうテープ止めしかないんだよね」
「ナオミは細いから、もうひとつ下のサイズでも大丈夫そう。小さいほうが、柄もいろいろあって可愛いんだよねぇ」
「穿くタイプの方が手軽ですよね。そのかわり漏れやすいですから、注意は必要ですよね」
「アンナは?」
「えっと、わたしは、その、おねしょシーツだけで」
「そうだ! アンナはおむつ穿かなくていいんだよね。羨ましい!」
「そんな、でも、しちゃうことには変わりはないし」
「試しに今夜、穿いてみる? あったかいよ」
「ええ、い、いいんですか?」
「うん! わたし、いっぱい持ってきたから!」
「あー、楽しい!」
ジュリアが満面の笑みで、ぽぉんとまくらを放り投げた。
「だって、おむつの話、友達とできるなんて思ってもいなかった!」
落ちてきたまくらを、ぽす、受け止めながら言う。
「本当です。おむつやおねしょのお話や相談が気軽にできる友人が見つかるなんて、思いもしませんでした」
、ナオミが続く。
あの、奇跡の出会いをしたわたしたちは、もうすっかり仲のいい友人となり、4人で会っておしゃべりをしたり、普通の友達同士のお話もたくさんするけれど、今朝はシーツまで濡らしちゃったとか、このおむつに合わせるパッドならどれがいい? とか、ミニリンメントって効く? とか、普通じゃちょっと話せないこともたくさんおしゃべりできて。
もちろん、SNSでも同じ話はできるかもしれないし、実はわたしは、けっこうそういう話や相談を、ネットの向こうの見ず知らずの人にしていて、それはそれで、楽しかったり、安心できたりしたのだけど。
いまこうして、目の前にいる友達と、気兼ねも遠慮もすることなくおねしょの話ができるって。やっぱり、奇跡だと思って。
「おねしょって、いつか、治りますよね?」
笑い声が響く中、アンナのその声は、どこか、ためらうようで。ん、そのためらいは一瞬で広がって、空気が少し、重くなるのが分かった。
「治したいと思っています。できることなら」
静かに口を開いたのはナオミ。
「そうだねぇ、後始末や水分制限の大変さを考えたら、治った方がいいよねぇ」
ジュリアはまだ枕を抱いたまま、天井を見ながら言った。
|