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「アンナはわたしたちの中で一番おねしょ少ないじゃない? きっと治るよ!」
正直わたし、うらやましいくらいだもん。
「治る治る! って、現役おねしょっ子のわたしが言っても説得力ないか」
あ、そうか。ジュリアのその一言が、ずぅん。わたしの胸に重く、落ちてきた。そうだよね、アンナよりずっとお姉さんのわたしたちなのに、夜はおむつじゃなきゃ眠れないし、お昼寝の時だって、おむつがなかったら心配で仕方ない。
わたし、なんとなくだけど、もうおねしょが、夜尿症が当たり前だって思っていて。でも、本当にそうなのかな。わたしだって、夜尿症じゃないわたしに、なりたい、のかな。
なりたいわたし? あれ、なんだろ、この沈んでいくみたいな、気持ち。
「わたしは、ほんの少しだけ、おねしょに感謝しているんです」
響いたのは、澄んだナオミの声。わたしの心のずぅんを、見透かされた気がして。
「おねしょをしてしまう自分が嫌いで、恥ずかしくて、だからそれ以外では、ぜったい誰にも負けないようになりたいって思って、勉強やスポーツに取り組んできました」
、おねしょが、ナオミの原動力だったってこと?
「いま、相変わらずおねしょをしてしまいますけれど、勉強もスポーツもとても楽しい。きと、おねしょがなかったら、勉強やスポーツが楽しいって思わなかったかもしれないって考えると、ちょっとだけ、おねしょに感謝かな、って」
「さすが、勉強もスポーツも、全国トップクラスのナオミが言うと説得力あるね!」
えー、ジュリア、それ、わたしじゃ説得力ないってことー?
「でも、これから修学旅行あるし、それまでには、治したいなって」
まだうつむいたままの、アンナ。
「そうだよね。よし、帰ったらおねしょの治し方、みんなで調べてみようよ!」
なんて言えばいいのか、良くわからないけど、きっとこれからのことにアンナはたくさん不安があるんだと思う。わたしもそうだったから。わたしだって、夜尿症、治せるものだったら、治したい。
「わたしも、恋人とお泊りするまでには治したいかなぁ?」
ジュリア、それ爆弾発言!?
「わー、さすがジュリア姉さんです!」
食付くアンナ。
「お泊りって、そ、そんな! 学生で、恋人とお泊りなんて、いけません!」
ナオミ、予想通りのリアクション!
「逆に、おねしょしちゃう恋人見つけるのも有り?」
ぺろりと舌を出すその表情にわたしは思わずどきっとしてしまって。さすが、ジュリア姉さんです。
「わたし、恋人ができた時のことなんて考えたことなかったです」
「えー!? なんかわたしがすごいえろいみたいじゃん! 考えない? 恋人とお泊りするときどうしようかとか」
「かかか、考えたこと、ありません!」
わたしもあんまり、考えたことなかったなぁ。
「想像でいいんだけど、恋人ができて、一緒に寝ることになったら、おねしょのこと、なんて言う?」
「だからそういうのはいけません!」
「ナオミらしくていいね」
「よしよしして、おねしょしてもかわいいよ、とか言われたいかな」
「わぉ、攻めるね、アンナ。エミリーは?」
「わたし? ほんとに今まで、考えたことなかったかも」
「たぶん、恥ずかしくて、きっとわたしは言えません。すごく悩むと思います」
、こそっと、ナオミ。表情は見えないけれど、きっと口がすごくとがっていると思う。
「わたしもそうかな。恋人じゃなくても、わたし夜尿症です、って、恥ずかしくて言えないかも」
「そぉ? わたしたちが出会ったとき、エミリーが真っ先に、おねしょするって話してくれたじゃん」
あれは、もしかしてって気持ちがあったから。
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