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「さぁ、もう寝る時間です。支度を整えて、寝室にいきましょう?」
 艶やかな唇が三日月を描く。吊り目がちな目元は細められ、まるで、子猫のような貌。化粧などしていなくても、その声は、その視線は黒嘘姫そのものであり、僕は逆らうことなどできず、彼女の前でズボンと、下着を脱ぎ、手渡された白い紙製品を穿いた。
「おやすみなさい、よい夢を」
 操り人形の気持ちで寝室へ向かう。それから明かりを消して、布団にもぐりこむ。一刻も早く眠りに落ちなければならない。彼女に心を縛られる幸福を、感じたまま。

 それは、夢だったのか。
 向かい合う、二人の姫君。どちらも繊細なレースやサテンのリボンが品よくあしらわれたシルクのネグリジェを纏っているが、ひとりは黒い衣に長い黒髪、もうひとりは白い衣に栗色のボブヘア。
 あぁ、そうか。黒嘘姫はお二人いらしたのか。黒嘘姫と、白真姫か。
 ひとりがくすん、と鼻をならし言う。
「おねしょ、しちゃったの」
 今にも泣きだしそうに、唇が歪む。
 するともうひとりが言う。
「おねしょ、してしまいました」
 目に涙をいっぱい溜め、けれどきゅうと唇を結ぶ。
「怒らない?」
「見ないでください」
「お着換え、させて?」
「自分で着換えます」
「できたの、なでなで」
「これくらいでほめないでください」
 お二人の姫君は、もともとひとりでいらしたのだ。それが証拠に、お二人がおっしゃることは、実はお互いの、言えぬ本心なのだ。

 ほんとうは、ぎゅってしてほしいんでしょ?
 いっしょにねてほしいんでしょ?
 あの日みたいに、甘えたいんでしょ?

「違います。わたしは甘えんぼうなんかじゃ、ない」
 ぽろぽろと、涙がこぼれる。涙とはこんなに温かいのか。ふわり、からだが温もりを覚えた。涙が流れていく、この感触は。

 高倉はまだ、まどろみの中にいた。目は覚めていない。けれど意識がある。そのぼんやりとした意識の中で、下半身に熱が広がっていくのを確かに感じた。まるでそれは、寒い日に浴びる熱いシャワーみたいに、懐かしさと恍惚を、彼に与えた。
 ああ、俺、おしっこしてるな。
 彼女におむつを穿かされること、そしておむつの中に排泄を強いられること、いや、べつに強いられたわけではないが、結果として、は、もう何度もあって、だからおむつの中におしっこをする感覚は、それなりに分かっていて、今まさにそれを下腹部に感じている。
 眠ったまま、おしっこをしたのか? 一瞬、夢精ではないかとも思ったが、量も感触も違う、間違いなく、おしっこだ。
 おむつでおしっこをすると、姿勢によってはずいぶんと漏れるし、おしっこの量によっては体重をかけても漏れることがある。高倉は身をもって知っている。
 ならば、いまのこの、横になっている姿勢は、どう考えてもよろしくない。
 腰を浮かし、四つん這いになって、なるべくおむつに体重をかけないように起き上がる。そのまま片手をシーツにまさぐる。ああやはり、あまりよろしくなかったようだ。シーツにいくつか、濡れている箇所がある。ふわりと懐かしいにおいがする。
 布団は明日干そう。シーツは、今夜のうちに洗うか。濡れたおむつはどうするか。夜のうちに漏らしてしまったので換えました、と言えば、彼女は納得してくれるだろうか。



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