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かけ布団をのけ、シーツをはぎとる。とりあえず重い下半身のまま、洗濯機に向かう。外はまだ暗く、街灯の人工的な白い光がちろちろとカーテンの隙からこぼれて、部屋のあちこちにうすぼんやりした陰を投げかけている。
自室の扉を開ければ、廊下を挟んで目の前が洗濯機のある脱衣場だ。明かりはつけなくとも、場所は分かる。青年は片手に丸めたシーツを持ち、ドアノブに手をかけた。かちゃり。
「わぁ!」
扉の向こうで悲鳴が聞こえ、高倉も飛び上がるほど驚いた。自室と同じように、外の明かりだけがわずかに照らす廊下。その暗がり、脱衣場の入り口に立つ、悲鳴の主。
「あぁ、びっくりしたぁ」
まだ息を弾ませて、彼女が言う。
「すいません、まさか先輩がいるなんて、思わなくて」
間髪入れず、高倉は謝る。
「どうしたの、こんな時間に」
いささか不機嫌な口調。何と答えようかと、ほんの一瞬口ごもったが、今ここに自分がいる正当な理由を述べなければ、もっと望んでいない結果が待っているような気がして。
「あの、おねしょしちゃったみたいで」
片手のシーツをわざとらしく持ち上げ、高倉は言った。
「へ? ゆぅくんが、おねしょ?」
「あ、はい」
いささかの恥ずかしさがないと言えば嘘になる。だが今まで、もっともっと恥ずかしい姿を彼女に見られている。それよりも、この時間、この場所で彼女と出会ってしまったことの、もっともらしい理由を伝えなければいけない、その気持ちの方が、勝った。
「あのさ、明かり、点けてもいい?」
もにょもにょ、その声は聞き取りづらかったが、確かにそう言った。
「あ、はい。いいです」
彼女の小さな白い手が壁をまさぐり、ぱちん、脱衣室の白熱灯、いや、正確には白熱灯色のLED、が灯る。高倉は目を細める。
体をすっぽりとつつむ黒のパジャマ。少し短いマキシ丈、と言うのだろうか、服のすそからは白い膝がのぞいている。すらりと伸びる細い足に、どきりとする。そういえば先輩のパジャマ姿、はじめて見たかもしれない。
てっきり、先輩は明かりを点けたがらないと思った。高倉は内心驚いたが、そのおかげでまじまじ、先輩のパジャマ姿を見られた。つい、ほおが緩む。
「シーツ、濡れちゃったの?」
「あ、はい」
男は乱雑にまとめられたシーツを両手で開いた。こぶし大ほどの灰色の染みが2、3、シーツの真ん中あたりにある。たぶん、足まわりから漏れたのだろう。
「おむつ、重そうだね」
見て、分かりますか。
もう一度シーツを乱雑にまとめる。就寝前、おむつに着替えたとき、ズボンはなぜか穿かなかった。ちょうど、両足の間の白い紙製品が、その重さを示すようにふくらんで、重力に引かれている。
さすがに、みっともないな。思ったが、彼女は少しだけ唇のはしを引上げ、僕の下半身と顔をちらちら、交互に見た。
「シャワー、浴びる?」
「そうですね。洗濯機、回したら」
「一緒に、浴びていい?」
「はい、どうぞ」
「先に入っててください、僕、洗濯機回しちゃうんで」
「ん、ゆぅくん、先に入って、わたし、用意するものがあるから」
彼女は脱衣室のカーテンをくぐって消えた。
洗濯機にシーツを放り込んで、まぁ、時短でいいだろ、ボタンを押す。かちり、蓋のロックがかかったことを確認して、パジャマを脱ぎ、ああ、俺はいま重くなったおむつ一枚のすがたなんだな、なんて、少し自嘲気味になって、ぐっしょりと濡れたそれを脱ぐ。
脱衣室に用意してある新聞紙でおむつをくるんで、ビニール袋に入れきつく口をしばったら、ゴミ箱へ。
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