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 お待たせ、制服と靴。一応、鞄も持ってきたから。置いておくわね。
 ありがとうございます。
 それと、新聞紙とビニール袋、あとタオル、使ってね。
 はい。
 着替えはある?
 はい、下着と靴下は持っています。
 分かった。必要だったら声をかけてね。
 すいません。

 新聞紙を広げ、靴と靴下を脱ぐ。焼いた魚のような、鼻に残るにおいがする。タオルで足のうらなんてを拭きながら、新聞紙の上に立つと、ジャージとオーバーパンツ、下着を脱いで、ビニール袋に入れた。体操服でやってしまったのは、この学校にきて、初めてか。

 小出は、あまり体育は得意ではない。体を動かすことは嫌いではいのだが、駆けても、投げても、跳んでもみな人並を下回る。特に苦手なのはダンス。歌も音楽も嫌いではない、むしろ好きなくらいなのに、踊るとなると体が動かない。振り付けは覚えられないし、そのせいか、自分だけどんどん遅れていく気がする。
 今日の授業はまさにダンスで、しかも、いくつかのグループに分かれて他のクラスメイトの前で踊ることになって、そう聞いた瞬間、少女の膀胱はきゅうう、と悲鳴をあげた。
 気持ちと尿意は直結している、と小出は思う。
 不安になったり、緊張したり、驚いたり怖くなったりすると、決まっておしっこがしたくなる。それも、すぐにでもトイレに駆け込まなければならないほど差し迫って。
 そうなったら長くは我慢できないから、トイレに直行すること。頭では分かっている。だが、次のひと言がどうしても言えない。今トイレに行きたいと言ったら、グループの他にひとに迷惑がかかる。もしかしたら、小出さんはダンスが下手だからトイレに逃げたんじゃない? なんて、思われるかもしれない。そんな考えが次々とよぎり、もう、言葉は出ない。
 順番が来る。皆の前に出る。おもらししちゃだめ、もうそれしか考えられず、音も目に映る光景も、通り通り抜けて行くだけで何も残らない。足が震える。これは緊張のせいです、おしっこ我慢してるって、おしっこ漏れそうだって、お願いします、誰も気づかないでください。
 踊り終わったときには、もう限界だった。おもらししちゃう。そうはっきり感じた。
 すいません、ちょっと気分が悪くて、そう言うが早いか、小出は校舎に向け駆けだした。いったいどうしたの、おかしな子、噂になっているかもしれない。後ろ指をさされているかもしれない。せめて授業が終わるまで我慢できなかったのか。すぐに後悔が追いかけてくる。
 けれど下腹部では今にも熱いかたまりがあふれてしまいそうで、途中で走っていられなくなり、精いっぱいからだを強ばらせながら、トイレだけを目指す。
 もう少し、校舎の入り口が見える。お願いします、間に合ってください。だが、その少女の切実な願いを飲み込むように、ぞくり、震えの波が広がる。

 しゅっ、しょわあっ、

 波に導かれるように、下着が熱くなる。おなかの中の圧力がさらに高まるような感覚。

 ここでしてしまうなら、せめて!

 小出は校舎の入り口手前の、生け垣の裏に飛び込むと、そのまましゃがみ込んだ。

 しゅいっ、しゅうう、しゃああああっ、

 同時に、おしっこが漏れた。



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