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「前の高校は、ありぃにすごく合ってたんだよね? なのに、わたしが無理矢理、一緒に住みたいなんって言ったから。ありぃに転校までさせて、つらい思いさせて」
「そんなことはないです。一緒に住みたいって決めたのは、わたしですから」
「でも」
「ねぇ、ちぃ」
小出は然有と向き合い、両手で彼女の左手を握った。まだ涙で潤む瞳が、すうっと然有に注がれる。
「確かに、前の学校はわたしにすごく合っていました。おもらしも、おねしょも気にしないで良かったですから。でも、それと、ちぃとは何の関係もありません。いまわたしは、こうしてちぃと一緒に暮らせて、すごく、しあわせですから」
「ほんと?」
「ほんとですぅ」
「でもさ、ありぃ、今の高校、つらいでしょ? 転校してから、おもらしも、おねしょもぜったい増えてる気がするよ」
「それは、寮から学校までがちょっと遠いから、通学途中に我慢できなくなっちゃうことは増えたと思います。でもそれは、分かってたことです。だから、下着の替えも用意してるし」
「でも、学校でおもらしのこと噂されたりとか、つらいでしょ?」
「はい、今日、すごく苦しいって思いました。おしっこ我慢できないわたしはおかしいんじゃないかって悩んだり、クラスメイトにおもらしのこと笑われたりしたら、きっとすごく、つらいって」
「ほら、やっぱり」
「でも、それはちぃが悪いからじゃありません!」
小柄な小出は半身を起こし、然有にずい、と迫った。
「わたしが決めたんです。わたし、大学に行こうって思って、でもあの学校には大学がないから、いつか、出て行かなきゃいけない。だったら少しでも早いほうがいい、そう思ったときに、ちぃが誘ってくれて、あっ、今だって思ったんです。だから、わたしが決めたことで、ちぃのせいじゃありません!」
こぶしを握って、少女は精いっぱいの気持ちをぶつけた。
「そうだったんだ」
「そうですぅ」
「分かった。じゃあ、わたしももう気にしない」
「それが、いいですぅ」
「そしたらさ、わたしも、ありぃに本音、言っていい?
「え? あ、はい。いいですけど」
「いい? 言うよ」
すぅ、と一息おいて
「わたしさ、ありぃがいなくなってめちゃくちゃさびしかったの! しかも新しい学校で楽しそうにしててめちゃくちゃうらやましかったの! もうクラスメイト全員に嫉妬するくらいうらやましかったの! 一年我慢したけど、もぉ限界で! ありぃに会いたくて会いたくて仕方なくて、それで、ほんとに自分勝手だって思ったけど、ありぃと一緒に暮らしたくって、もぉ、ありぃがいない毎日に耐えられなくって。ほんとにごめんね、ありぃ!」
途中からもう、顔をくしゃくしゃにして、涙にむせながら然有は言った。
「でもね、ありぃ、だからって自分を責めないで。ほんとはありぃが自分で高校を決めたこと、すごく応援したい気持ちでいっぱいだったんだよ。でも、ありぃのことが好きで、好きで、そばにいて欲しくて、我慢できなくなっちゃった」
ぐす、泣き顔のまま、然有が続ける。その首すじを、小出はそっと両手で包み、こんどは彼女が、涙で赤く腫れたまぶたに、桜色の小さなくちびるを押し当てた。
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